マテウス・サヴィオ選手のPKと小屋松友哉選手の移籍後初ゴールに真家英嵩選手が続き、細谷真大選手とドウグラス選手、そして、升掛友護選手が衝撃を残して2022年をスタートさせた柏レイソル。
一時はリーグ3位につけるなど、好調を維持している。鵜木郁哉選手やアンジェロッティ選手、森海渡選手らも新たに得点者に名を連ね、その得点力は好調の1つの要因となっている。一方で13節終了時点で1試合1失点以下に抑えていることも見逃せないだろう。そしてDF陣に話を向けるたび、同じことを耳にする。
「自分たちのサッカーは昨年から変わっていない」―。
そう話したのは大南拓磨選手と高橋祐治選手。強度の高い守備から爆発的な攻撃参加で魅せる大南選手。DF陣の最年長、高さとリーダーシップで牽引する高橋選手もこのシステムの申し子の1人。ここに古賀太陽選手を交えた3人は昨季終盤から軸を担ってきた。
「昨季から続けてきたことが成果として出ている。自分は3CBの右として守備をして、右SBとして攻撃に出ていくので、昨季に右SBでプレーした経験が攻守に大きい。特に今季は(中村)慶太くんやサヴィオが相手を引き付けてくれるので自ずとフリーの状態でプレーできる。走れば良いボールが来るんです」(大南拓磨)
「感覚的に昨年と違いはないと感じています。昨季までは自信を得られず、DF陣で議論をした日もあった。今はMFとの間に生まれるスペースでの守備を意識して高いラインを敷く為、DFの選手たちには『相手に強くいこう』と伝えている。共通意識は高いですね」(高橋祐治)
DFラインの背後を担う韓国代表GKキム・スンギュ選手も2人の意見に続く。
「DFの面々は昨季から変わらずプレーしていますし、昨季からの積み重ねもあり、安定感が増している。全員が『1からやるべきことをやるんだ』と思っている。その連鎖が現在の結果に繋がっている」
そう、変わったことなどないのだ。変わらず続けてきた軸があるから新しいアレンジを施すことができる。
彼らを追うように、ルヴァン杯経由で出場を重ねている上島拓巳選手は「監督が求めるのは、『下がらず、重くならず、前から相手を捕まえる』こと」と自らの仕事を言語化。5月の広島戦と浦和戦ではDFの中央で守備をコントロールした。彼も昨季からの軸の1人だが、今は「新基軸」として浮上。チームを新たなフェーズへ牽引する。
上島選手はレイソルアカデミー出身者ならではのビルドアップを特徴とする選手だが、今は自らの特長を誇示するのではなく、戦術の中に身を置くことを優先している。
「まず、『監督が求めることが優先』という大前提がある。育成年代ではまた別のサッカーをしていたし、挑戦的な判断も可能でしたが、今はシンプルな選択を求められている。まずは隣にいる選手に素早くボールを預けて、チームが良い状態でボールを供給できるよう努めています」
チームのピースとして存在することを選んでも、プレーの端々に不思議と「らしさ」が漲っているのも、また痛快だ。
強く良い守備から強く良い攻撃へ。良い結果に繋げるサイクルが確立しつつあり、森選手らルーキーの台頭も目覚ましい。希望に満ちた今の状況をゲームキャプテンの古賀選手はこう分析する。
「1つのパターンばかりに頼ると、また以前と同じ現象が起きるはず。勝てている今だからこそ、改善へ取り組んでいきたい。ただ、昨年と明らかに違うのは前へ相手を掴みに行く際の迷いがないところが今の充実感に繋がっている。そこが以前との一番の差ですね」
成熟を重ねながらリーグ戦の3分の1が終了した今、古賀選手に聞きたいことがあった。開幕前のメディアの予想順位は軒並み低評価。悲観的な憶測に包まれていたことについて。
古賀選手は「昨年の出来が良くなかっただけに分からなくはない」と丁寧に前置きをしてから、当時を回想した。
「もちろん、良い気はしませんでしたよ。『始まってみないと分からないでしょ。全て覆していくだけだ』と感じていたし、監督も同じ考えでしたし…人によっては別の感情を持っていたかもしれませんけどね(笑)」
クラブ創設30周年の刺激的なシーズンは続く。
(写真・文=神宮克典)