秋の気配が深まる今日この頃。紅葉狩りなど、旅をしながら行く先々の景色と食べ物を存分に味わう「行楽の秋」も魅力的ですね。
さて、百人一首には四季の中でも最多である十七首の秋の歌があります。中でも近年アニメ化・実写映画化もされた末次由紀の漫画「ちはやふる」の題名にもなっている次の歌が有名ですね。
「千早(ちはや)ぶる 神代(かみよ)もきかず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは」。
歌意は…不思議なことが様々起こっていたという神代の昔の話でさえも、これは聞いたことがない。龍田川が(一面に紅葉を浮かべて)真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは。
六歌仙の一人、在原業平(ありわらのなりひら)(825―880)のこの歌は、紅葉の名所である、現在の奈良県生駒郡斑鳩町に流れる竜田川の情景を感動そのままに表現したものです。
また、百人一首には同じ竜田川と紅葉を詠んだ「嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり」という能因法師(のういんほうし)の歌もあります。ここでも竜田川の水面が「錦のように絢爛とした美しさ」と表現されています。
能因法師(988―1050)は東北や中国地方、四国などの歌枕を旅した漂泊の歌人としても知られています。
そして、元禄二年(1689)3月のこと、俳人松尾芭蕉(ばしょう)が門人曾良(そら)を伴い江戸を発ち、奥羽・北陸の各地をめぐる旅に出ました。後に『おくのほそ道』としてまとめられるこの旅は、実に約六百里(約2400㌔)、日数約150日にも及ぶ長旅でしたが、その目的こそ、かの歌人能因法師や西行の足跡を訪ね、歌枕や名所旧跡を探り、古人の詩心に触れようとすることでした。
「月日は百代(はくたい)の過客(かかく)にして 行かふ(こう)年も又旅人也(なり)…日々旅にして旅を栖(すみか)とす」
と始まるこの紀行句集は、現在の岐阜県大垣市で詠まれた「蛤(はまぐり)のふたみにわかれ行く秋ぞ」という秋の句で終点を迎えました。江戸を出発する際の「行く春や鳥啼魚(とりなきうお)の目は泪(なみだ)」と対をなす秋の終点。旅と秋に想いを馳せてみてください。
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。