うだるような暑さもようやく過ぎ、秋も深まってきました。今回は、そんなおだやかな季節にぴったりのノルウェー映画をご紹介します。『ヒューマン・ポジション』は、峡湾に囲まれ、絵画のような色彩豊かな風景で「ノルウェーで最も美しい街」と称されるオースレンを舞台にした、優しく美しいスローシネマです。
青くて、もの悲しいオースレンの長い夏。病気療養のため仕事を辞めていたアスタは、地元の新聞記者として復帰します。心身ともにまだ万全ではないアスタでしたが、パートナーのライヴとの他愛もない日々が癒しとなっていました。そんなある日、労働法違反で難民申請者が強制送還されたという記事を目にします。その事件を調べていくうちに、アスタは自身を覆っていた無気力感を払拭し、仕事とプライベートの両方で自分が求める“心の居場所”を次第に見出していきます。
本作は、何かを声高に叫ぶわけではありません。しかし、世界有数の裕福な国として知られるノルウェーに対する、微妙な疑問とメッセージをそっと投げかけます。ゆっくりとした夢のような時間の中で、人生の小さな一歩を踏み出す勇気を与えてくれる至福の一本を、ぜひ当館でご堪能ください。
（キネマ旬報シアター 長谷部）
