MENU

「側」のその内側の話

レイソルコラム

 リカルド・ロドリゲス監督が監督に就任し、レイソルが迎えた「新しい日常」。その出足そのものはいわば、「視界良好。あの光へ向かうんだ」という状況にあるように、こちらからは見えているし、そうだと確信していた。

 だが、必ずしもそうではないようだ。

 日立柏サッカー場の取材日、福岡遠征を制した選手たちを待った。

 まずは右サイドを疾駆する柏レイソルの新しい右ウイング・久保藤次郎にマイクを向けさせてもらった。

 古き良き役者のような名前。着流し姿で街を流す孤高の剣士のアニメから現れたようなルックという付け加えを添えたくもなる、そんな彼。見れば見るほど、フィギュア化にもソフビ化にも相性が良さそうだ。


 ポジティヴなムード漂う日立柏サッカー場。練習を終えた久保はダウンジャケットを羽織るかどうか、袖が通り切るかどうかのタイミングで口を開かんとしていた。

 テーマは「ここまでの自己採点」といった主旨だと思っていただいて構わない。

 久保はこう言うのだ。ただ、その口ぶりは「やや重」。

 「…うーん。『もっとできる』って思っています。もっと仕掛けることだってできると思いますし、ゴールを演出することだって、シュートを打つことだってできる…うん、『もっと、できる』と思っています。自分としては『持っている力』を出せていないと感じているんです」

 この2試合、右サイドで久保が見せているドリブルや強烈な矢印は実に印象的。そのインパクトはまるで、かつて日立台を興奮させた「やたらと速い」現象に近いものを感じるほど、良いエンジンを積んで、久保らしくプレーしているように見えてはいるのだが、どうやら納得がいっていないようだ。

 私はここで1回、久保の感情を取り違えた。「役割を表現できているように思うし、その先の精度に不満がある?」。そう返していたのだが、久保はそれらを汲みつつ、こう話した。

 「それもありますけど、感覚的には『まだいける』って感じです。『まだ未知の領域』を目指しているというより、元々自分にあった能力に対して、『もっといけるな』という気持ちですかね。ただ、監督は今の自分を評価してくれて、まだ全てを出せていない自分に期待をして起用してくれている訳ですから…自分の中でははっきりと『危機感』が生まれています」

 レイソルを取り巻くムードと真逆の感情を口にした久保の中に宿る責任感や自信は理解できた。「良い印象を残せばいい」じゃ納得いかないのである。

 では、「何ができて、どんなことをしたいのか。どうしたら納得ができるのか」といった問いを当てさせてもらった。

 「まだ、『自分の能力が足りていない』ということ。例えばですけど、『10回仕掛けろ』と言われて、何回か、2回くらいビックチャンスに繋がることってあると思うんです。その10回のうちの残り8回の中で、3回無謀なチャレンジが3回あって、良い判断に繋がることだってある。無謀でも良い状態でビッグチャンスに繋がったとなれば、確率はまた上がる訳で。2回だったビッグチャンスが3回になり、バリエーションも増えることになる。でも、そこが今の自分の目の前にある『壁』。難しいことですけど、適応して、やれることが増えて、ドリブルを仕掛ける。それがやりたいですし、もっとできれば」

 ピッチの横幅の68mを前線の5人でシェアして、段差を作りながらゴールを目指すレイソルの新しい日常は、近代的で前衛的でとても良く分かりやすい。よく見れば、よく分かる。

 だが、プレーする側は間違いなく距離感的にタイトだし、必ず背後に生まれる「リスク」に対しても、「クオリティ」で補わなくてはいけない訳だから、前線の右端から生み出すイメージとの折り合いはそうは簡単につきそうにないし、そもそも思うような闘い方が毎度毎度できるはずもない。その意味で、福岡との戦術的な我慢比べを制したことは大きな意味がありそうだ。

 「初戦の『ちばぎん』のような展開は練習試合の中でもあって、プレーしている自分たちからしても、簡単な?イメージ通りの展開。でも、開幕の福岡戦では今まではなかったような『事象』が起きても、1点取って勝つことができた。自分たちは1個ずつ学んでいくしかないですし、この先にまた同じような事象が起きた時、毎回の反省を活かしていくしかないです」

 また、久保はロドリゲス監督の興味深い言葉を教えてくれた。

 「監督はよく言うんです。『試合中は私の声は届かないからな』って」

 まさに、この言葉をどう咀嚼するのかは選手たちそれぞれ。すごく意味のある言葉だと感じた。ここにあるように様々な言語化が秀逸な久保のこと、その言葉の刺さり方や料理の仕方に興味がある。

 もちろん、要求やタスクはある。たくさんありそうだ。簡単に手にした成功体験を活かすもよし、無謀なチャレンジも時には尊重されるべきだとも思う。危機感を持って臨むのもまた然り。

 そして、久保はこう話した。

 「相手によっては上手くいかないことだって絶対ある。そこで自分たちが変化を付けられるか。そこへの挑戦がカギになってくる。どっちに転ぶか分からないですけどね。みんなで意思疎通していきたい。それも『経験』ですよね」

 アニメの中ならきっと少し凹んでから立ち上がり、困難やそれこそ壁を乗り越える。久保がどのような変貌を見せ、レイソルがどうJ1リーグ戦っているかの、その答え合わせは、またこの先に。

 スタメンの選手たちを見渡した時に試されているようにも感じる立場から一気に浮上してみせた選手もいる。

 2年目の熊坂光希だ。


 この福岡戦との開幕戦、たくましくどこかクールな戦いを見せたレイソルの選手たち。その中で私の個人的な「マン・オブ・ザ・マッチ」は熊坂。

 先の「ちばぎんカップ」で60分ほどで両足を痙攣させていた、あの選手だ。

 「大学時代の熊坂が『あんな感じ』でしたよ」

 そんな言葉でジャーナリストとしての格好が付くのであれば、こんなコラムは続けていない。

 ただ、まずは「素晴らしかった」。そこは必ず残しておきたい。

 熊坂は淡々とファイトをして、淡々とボールをさばきながら幅広くスペースをケアして、張り出す前線のメンバーたちを支えた。相手選手がダブルイエローでの退場を宣告されるに至ったシーンにはこの日の熊坂がどのような存在だったかを示していたように思う。出足が早く、球際へ勇敢だった。このワンプレーはこの試合の「仕上げ」を容易いものにした。

 「前線のメンバーがしっかりと相手のボールの制限してくれているので、そのおかげで中盤の自分たちは守りやすいです」

 そう、静かに話す熊坂は「相手にとってイヤな立ち位置を取る」、「パスのテンポを落とさないように良い中継点になる」という仕事を意識して、「サイズを活かしてボールに挑む」、「ボールを拾う」というタスクを担って勝利に貢献。熊坂は好パフォーマンスへ繋がる「理解」についてはこう整理する。

 「チームは『ボールを大事にする』ということを大切にしている。そこで自分が原川力くんと良い距離感でスイッチになれるように、『起点』となる仕事を求められている。押し込んでいる状況でのセカンドボールの回収も大事な仕事で、それらが自分に求められているのは理解しています」

 レイソルが放ったパスの本数が話題だったが、ボール奪取のデータは未発表で未確認。その本数はあくまで「側(がわ)」の話。それだけに放ったパスの本数だけ生まれるリスクを回収した熊坂たちの守備の出足の良さは特に印象的だった。私たちはそのあたりをもっと知るべきだ。

 熊坂は次への希望をこう語る。

 「自分なりに手ごたえがありましたし、肝心な結果も付いてきてくれました。まだまだある程度ですけど、自分への要求はこなせた。『良かった』とは思いますけど、これを続けていかなければ。『福岡戦の出来が最低ラインだ』というくらいに」


 分厚い陣容を誇る今季のMF陣。白井永地や戸嶋祥郎なども熊坂に近いタスクを担う可能性がある。競争を勝ち抜くためのヒントは「最低限の健康」は当たり前のこと、そこへ「今日の仕事をブラッシュアップすること」。そして、「60分で足を痙攣させないこと」に尽きる。

 「攣らなかったですからね。水分をたくさん摂りました(笑)」

 上げてしまった「ハードル」というのは華々しければ華々しいほど厄介なものだ、さらに素晴らしい準備と結果、責任が必要になる。熊坂はそのハードルをまた上げるのか、ハードルに足を引っかけてしまうのか、その手前で痙攣を起こすのか、楽しみにさせてもらっている。

 この久保と熊坂とは少し異なる立場にいるように映るのは小屋松知哉だ。


 どんな時もブレない選手だし、話をさせてもらうたび、「達観」すらも感じる人である。

 「チームとしてスタイルを表現した上で、何よりも勝てたことが1番良かった。福岡がブロックを固くして、スライドもして守ってきた中で、自分たちも焦れずにやり続けられたこと。その中でしっかりと点を取って勝てたこと。そこは次に繋がっていくことだと思います」

 堅守を誇る福岡が相手、さすがに「ちばぎん」のように左サイドを完全支配とはいかなかった小屋松ではあったのだが、むしろ、「らしさ」を見せつけていた。小屋松が醸す、巧みで速く、精度が高い安心感は印象的だった。

 「DF表記の左ウイング」である以上、MF陣やDFラインからボールを受ける、引き出すタイミングは重要だ。受ける側に回った際、チームにあった「焦れ」についてどう感じているのか聞いてみたかった。

 相手の動作を観察しながら、ボールの置き場を少しずつ丁寧に調整して、鋭く相手を振り切るドリブルに至る、その前のムードについて。

 「彼らがどう感じでいたのかまでは分かりませんけど、自分たちのやり方的にも、『焦らずにボールを動かしていこう、隙を作ろう』と話していた。多少は前へ進めない感覚はあったのかもしれないが、我慢強くできていたと思いますよ。ただ、5枚で守ってスライドしてくるようなチームには多少苦労する場合もあるかもしれないですけど、90分の中で相手の強度が下がったり、隙が生まれる瞬間がある。その時にパワーを持って仕掛けていけるところが今のチームの良さ。自分はそう感じています」

 パワーを持って仕掛ける前に、焦らずボールを動かすために必要なのは「本数」よりも「ポジショニング」。そう信じる私はパスの出し手としても受け手としても優れた選手の1人である小屋松に金言と説法をせびらせてもらった。

 どんな時も彼らにまず求められるのは「パス」というプレーの前に、「ポジショニング」だ。そこを履き違えてしまってはならない。1000を越えるパスを繋いだチームが負ける姿だって見たことがある。

 「そうですね、『ボールポゼッション』には『良い立ち位置』と『良い距離感』が必須の条件。プレーをするエリアやレーンの中で、それぞれ良い距離感でなければいけないと思うし、パスだけでなく、さらに『仕掛けてみること』や『入れ替わってみること』だとかの工夫はもっと必要になると思っています」


 小屋松がパスを受けて、少しボールを晒しながら、数mの「運ぶ」ドリブルから見せる選択を注視していると試合がまた面白くなる。

 仕掛けるもよし、前方の景色を確認して、次のポジショニングの前にひと手間をかけて、再びポジションを取る。ボールが出ないことはしょちゅうだが、ボールが来る想定で必ず良い位置を取る。私の中で、小屋松はこの類のサッカーですべきことを静かに繰り返す、「サイドの匠」なのである。この項で先述した右サイドにある「感情」との良い意味での対比を楽しむことだってできる。

 福岡戦の後半には右ウイングにポジションを移して勝利に貢献。今まで意外となかった「フル出場」を果たしてから迎える今季の第2節・「三協フロンテア柏スタジアム開幕戦」には川崎がやってくる。

 「ホームスタジアムで自分たちの新しいスタイルを表現するのは今季初めて。ファン・サポーターの皆様も自分たちを楽しみにしてくれていると感じています。昨年はホームでなかなか勝てなかった。まずは一戦目からしっかり勝って、自分のスタイルを表現した中で、みんなで喜んでいけるシーズンのスタートとしたいですね」

 今週も左から楽しみを与えてくれるはずだし、私の記憶の中には「いつぞやの国立競技場での川崎戦」で伸び伸びと面白いようにチャンスメイクを繰り返した小屋松の残像がしっかりと残っている。

 「あの『ちばぎん』のあとにはサポーターの皆さんからたくさんのメッセージなどもいただけてうれしかった。レイソルに来てから個人的には良いシーズンを過ごせていなかったので、今年は『自分を表現する』と誓って臨んでいます。選手として、『もうひと花咲かせる』。そのつもりで戦っています。自分の良さをチームのために!」

 小屋松が今季のレイソルの象徴的な存在の1人であることをお伝えしたかったのだが、よく考えると彼の応援チャントの最後のフレーズ、その歌詞はなんだか、今の私たちにしっくり来るから面白い。

(文・写真=神宮克典)