10月5日三協フロンテア柏スタジアム(日立台)で開催されたJ1リーグ第33節横浜F・マリノス戦に柏レイソルは8分に生まれたマテウス・サヴィオのゴールで1ー0で勝利。冷たい小雨吹きつける日立台には歓喜の声援が飛び交った。
この日は笑顔で終われたが、少し前には「失態」と言わざるを得ない試合もあった。明らかに苦しい時期を過ごしている。その事実は紛れもないところ。
だが、苦しいながらも光明だって差している。
レイソルの守備である。
サイドや中央から、あるいは速攻から、ピンチは必ずあるが、CBがギリギリでボール掻き出すタイプの守備ではない。ピッチに広がる11人による丁寧なオーガナイズからの守備だ。
マリノスはCBとGKがボールを動かしながらレイソルを誘うが、レイソルは付き合わない。そんな睨み合いが印象的な立ち上がりから、FWの細谷真大や木下康介、小屋松知哉らは自身の成果を一度傍らに置いてでもチームの為に相手ボールに喰らいつく。
ただ、喰らいつくだけではなく、数m背後にいるMFたちとの連携で相手ボールに狙いを定め、奪いにいく。この際のスピード感や体の持っていき方、いわゆる「インテンシティ/強度」の選択は秀逸。細谷や木下の位置からボールを奪えれば、ゴールまでは30mほど。M・サヴィオらを交えた彼らにとってはゴールまで4秒ほどの距離感、局面次第では一気にチャンスになる。
試合中に2回か3回訪れるかも分からないボール奪取の機会を狙いながら、相手のボール回しを制限していたし、そうでなければ、山田雄士や白井永地、手塚康平らMFとの連携からボールを奪うなり、相手にボールを蹴らせて最終ラインでマイボールにする。古賀ら最終ラインはその網からこぼれたボールを追うのではなく、ボールがこぼれるように陣形を操る。そんな相手の光を消していくような守備オーガナイズを披露する機会は確実に増えている。
きっかけはやはり「あの試合」ー。
キャプテンの古賀太陽はこう話す。
迂闊にオーガナイズの全てを言語化して口を滑らせてしまうなんてミスをしない男だ。ただ、いつの時代も、誰か指揮をし、ピッチに誰がいて、どんなサッカーを追求しても、どのカテゴリーにいても、必ず直面してきた「良い守備からの良い攻撃」という宿命。その一端の理想にようやく辿り着いた感触があったようだ。
「3試合連続で失点ゼロに抑えられていることは自信になっている。先のジュビロ磐田戦での敗戦はチームの意識を入れ替える大きなきっかけになっています。やはり、結果として、『失点ゼロ』となると、『レイソル守備陣が…』って語られがちではありますけど、この結果は間違いなくピッチに立つ11人が高い意識を持ち続けて、サボらずに続けている証拠だと思う。『失点ゼロ』にこだわる守備を続けることは大事にしたいし、自分たちの新しいスタンダードにしなくてはと思う」
そのようにチームの成果に言及してから次の段階に話が及んだ。その次の段階とは、そう、「では、どうやって点を取るのか?」。
「守備を見つめ直していた分、攻撃面に課題があるのは理解していますし、もう少し前でボールを引っかけてのショートカウンターは狙っていい形だと思っている。自陣でのギリギリのクリアを繰り返して、ボールを拾われて連続攻撃を許してしまうサイクルは自分たちにとって理想的ではないですから、『高い位置の圧力』と『ショートカウンター』、『その回数』という理想はもっとしっかりと持っていいと思っています。『チームの重心が後ろにある』という見方と『無理に前へ出て行かなかった』という見方ができる中で、『前へ行く場合』と『行かない場合』の判断は良くなっていると思う。最終ラインの立ち位置だってもっと良くできる」
ただただ、亀になってボールを弾き返していただけではない。勝点1を持ち帰った鹿島スタジアムとヨドコウ桜スタジアムで見せた戦い方のディテールは似て非なるもの。そもそも、守勢に回らざるを得ないアウェイゲームが続いた日程のあやだってあるかもしれない。そして、ようやくこの日はしっかりと守ってから前へ出て行く糸口が見えてきた。古賀の話からはそんな変遷を感じた。
状況は未だ苦しい。望んだものではない。
では、その中で古賀は自分自身の今現在をどう見ているのか気になった。分かりやすく云えば、「オフ・ザ・ピッチ」と「オン・ザ・ピッチ」の両面だ。
聞いてみると、古賀的「自分の良さ」は以前と大きく変化していることに気がつく。
まずは「オフ・ザ・ピッチ」ー。
「難しいな…(笑)。最近はそんなに自分のことばかりを見ていなかったってところはありますけどね。むしろ、シーズンを振り返りながら、『あの試合を』とか『あの勝点2を』って反省材料として思い返していましたかね。複雑な気分ではありますけど、自分たちがそうしてしまったわけなので…その責任については、自分たちが今の順位よりも1つでも良い順位で終われることで果たされるんだと理解しています。自分はいつも『結果で自分を見ていたい』ってことですね」
もう堂々としたものである。
そして、「オン・ザ・ピッチ」ー。
「プレーでの貢献面だと…なんですかね?それこそ自分は派手なことをしないタイプですし、CBという『守備者』としては…まず、『ピンチを未然に防ぐこと』は意識している。FWにボールが入った場面で相手に仕事をさせないことが理想だったりもしますけど、それ以上にチャンスになるようなボールをゴール前へ入れられる前に防いでしまうだとか、それらが起こる前に未然に防ぐことが一番良い守備だと思うし、入れられてしまっても、一番危ない場所に自分が入れていたり、スペースを埋めれていたりとか。そのあたりを『自分の良さ』として表現できているとは思います」
以前ならマイボール時のプレー選択やビルドアップへのこだわりについてに重きを置いた話題になったものだが、今や重心は後ろにある。
不覚にも激しい試合の中で頭と体を酷使したあとに何を聞く、さらに頭を使わすのかという聞き方になってしまったが、守備者・古賀太陽の現在地を改めて確認できたことはかなりの収穫だった。
元々、こんな考え方の持ち主だ。
「CBとして空中戦は大事な仕事ですが、常に相手より高く飛び、全てに勝つ必要はないと思っている。空中で競る理由や守り方はそれだけじゃないから」
「自分の動き方によって良い守備の形が生まれたり、可能性が低いスペースへ相手がパスをする予測だってある。ただ強く相手に食いつけばいいとは思わない」
「CBを組むパートナーが相手へガツっと行くタイプなのであれば、その個性やプレーの予測もしながら、ヘルプやカバー、何をすべきか判断している。自分はそういう選手が好きだし、見ている」
このような「ユニークな思考」を持った選手でもあり、敢えて挙げれば、今やCBらしい半身のバックステップでの対応も見事。かつてはキックの種類や2手先をイメージしたボールの置き方、そのアレンジで相手を剥がして、展開を打破するボールを放つことで身を立ててきた選手だったことを思えば、重心はやや後ろにあるとはいえ、スキルの探究者としても自慢の選手だ。
また、痛みを伴いながら作り上げているオーガナイズの中に新たに放り込まれた相棒・立田悠悟に関しては目尻を少し下げてこう話した。
「今日は久々に先発する選手や出場停止などもあり、別のポジションでプレーする選手もいた、悠悟もその1人。なかなか試合に出られない中での先発でもあった。出来だけで云えば、今日は申し分なかったと自分は思っていますよ。ただ、悠悟と自分が組むのであれば、お互いの特性上、もっと攻撃的な判断で貢献もできたはずですけど、『失点ゼロ』にこだわれたことと勝てたことは良かった」
繰り返しになるが、状況は苦しい。
でも、その苦しさの理由が「残留争い」に対してになるのか、あるいは「来シーズンへ向けた産みの苦しみ」に対してとなるのかは自分たち次第というシーズン最終盤のレイソルではあるが、誤解を恐れずに言わせていただくと、もうすっかりこのチームは古賀太陽のチームである。
その理由は奇しくも古賀が挙げた「ユニークな思考」がチーム全体で発揮された時のレイソルは強いから。
だから、私たちは彼をもっと誇っていいし、もっと求めていいし、もっとクセの強いチームになっていい。
(写真・文=神宮克典)