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背番号1、出番 -猿田遥己

レイソルコラム


 6月12日、三協フロンテア柏スタジアムでは我らが柏レイソルがJ3いわてグルージャ盛岡との「天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会」2回戦に臨んだ。後半に生まれたFW山本桜大の2ゴールでレイソルが勝利して3回戦進出を決めた。

 山本のゴールを導き出した鵜木郁哉と升掛友護、木下康介が歓喜を共有する中、少し離れた場所で、またひと味違う喜びを噛み締めていたのはGKの猿田遥己だ。

 1つの椅子しかないGKというポジションを生業とする猿田の公式戦出場は実に1年2ヶ月ぶり。この夜は「キャリア5試合目」の公式戦だった。前回の出場時(2023年4月19日)にはまさに破顔一笑のガッツポーズで試合を終えたが、この日は軽く親指を立てたくらい。静かにスタジアムをあとにした猿田を呼び止めて、マイクを向けると、その最初こそ、「最高。勝利って、最高ですね!」と笑顔を見せてはいたが、すぐに気を取り直してこう話した。

 「思っていたより緊張せずにやれたことは良かった。緊張をしなかったのは『練習で積み上げてきた自信』があったから。昨年は緊張していましたが、今年は『練習の中でも良いプレーができている』と感じているので、試合前から『いけるな…』という気持ちだった。良かったのは失点ゼロに抑えたこと。シュートもほぼ打たせていないし、クロスボールの対応や裏のカバーはできていたと思う」

 正GKとして定着していた松本健太が離脱中にあり、守田達弥、佐々木雅士の順で、出場機会を回していたレイソルにとっても、3番目に機会が回ってきた猿田にとっても、重要な意味を持つ完封勝利となったが、猿田はこの日の自身のビルドアップやゴールキックの精度、実戦に耐え得る体力面などを課題として挙げてから、それほど感慨に浸ることもなく、「その先」を見据えた。

 「たとえ次の『出番』が自分へ来なかったとしても、『また出番が来た時にどう対応できるのか』に目を向けて準備を続けていきたい。昨年の出場の時も試合には勝てていても、翌週の紅白戦には入れなかった。その経験が自分にはありますし、そこで心が折れてしまうような選手を監督は使わないと思います。だから、また自分が試合に出た時に勝利を掴めるように準備をしたい」

 かつては年代別日本代表に名を連ね続けた頃もある大器。そんな自分への自信と野心に対して、肝心の「出番」が訪れない現実との折り合いを見つけられず、生まれた感情を支えきれなかったことも、潜在能力を買われて他クラブで経験を積むことを選んだことも、その後にとんでもない痛みが膝を襲い、思い描いたシナリオ通りには進まなかった経験もある。

 だが、どんな経験を経て、どんな人間的成長を遂げようとも、どんな能力を秘めていようとも、「出番」に与れるGKは概ね2人。GKという世界はかくも厳しい世界である。猿田が「出場機会」を「出番」と表現するあたりも言葉以上の奥行きを想像してしまう。

 この誇り高き「キャリア5試合目」のGKという、いわば「プレーンな」選手に、毎日、シュートの雨に晒され、草と泥、汗にまみれながら、思い描く理想像を教えてもらった。「どんなGKになりたい?」と。

 「ずっと自分の中にあるのは、『シュートを止められるGK』になりたいって気持ちです。自分はずっと中村航輔(ポルティモネンセ)選手を見て育ってきた。だから、『あのイメージ』が理想として頭の中にあるんです。ビルドアップに関わることも好きですし、楽しいです。もちろん、『チームを勝たせる』という最大の仕事も大切ですが、自分はシュートを止めたい。FWのゴールのように、それはGKとしての醍醐味というか…かっこいいじゃないですか?」

 聞いてよかった。だが、まだ私の腕では「猿田遥己という選手はこうだ」とコラムを終わらせることができない。GKを綴るということはそんな安易なものではないから、「キャリア6試合目」の試合後にでも答え合わせをしようじゃないか。ただ、少なくとも、また次へ繋げた「出番」であった。次の「出番」には描いている理想像を提示する必要がある。

(写真・文=神宮克典)