英雄たちは帰る、我が街に -細谷真大・関根大輝

レイソルコラム

 思い出すだけでも、鳥肌が立ちそうだ。

 U-23アジア杯カタール大会・準々決勝U-23カタール代表戦。時間は101分。カタールゴールを揺らした細谷真大は感情を解き放つように全力で駆け出してニースライド。おそらく「バモ!」と吠えていたことだろう。細谷に負けじと関根大輝もその後に続いた。延長戦とは思えない爆発的な速度にも驚かされた。

 そして、細谷は両手を両耳に当て仁王立ち。

 うっすら聞こえていたであろう「雑音」に対しては「自分に何か?」。細谷のゴールを待ち望んでいたサポーターたちには「聞こえない。もっとだ!」。

 そう言っているように見えた。

 細谷はゴールをこう振り返る。

 「カタール戦のゴールは、自分にとっては『やっと決められたゴール』でしたし、チームが苦しい時に決めることができた。あの時間、自分の代わりの選手がスタンバイをしているのは分かっていた。その中のゴールだった。このまま決められずに交代となれば、自分の価値に関わることでもあった。その中で結果を出せたのは自分にとっても大きなことでした」

 細谷に駆け寄った関根も、大会を通じ右サイドで躍動。レイソルサポーターにとっては誇らしい活躍だった一方、関根のプレーを目にすることが少なかったサッカーファンにとってはサプライズだったに違いない。

 「優勝することができて、ホッとしたという思いですし…疲れました(笑)。自分にとってこの大会は『人生が変わった大会』といえる大会になりました。もちろん、プレッシャーもありましたが、楽しみながら、今までのサッカー人生の中で一番濃い日々を過ごすことができたと思います」

 優勝を決めたウズベキスタン戦まで6試合を戦ったUー23日本代表。関根はそのうち5試合でプレー。大会を戦いながら徐々に状態を上げ、試合ごとにレベルアップしていったのが特に印象的だった。

 「大会を戦う中で自分の良いところを出せていたが、同時に課題も見つかりました。攻撃に関するポジショニング、そして、クロスの質に関しては、大会を通じて自信になりました。強い相手と戦いながら通用していたと思いますし、徐々に余裕を持ってプレーすることができていた。改めて自分の強みだと再確認できました」

 面白いように右サイドを疾駆して、様々な球種を蹴り込み、攻撃を彩った関根だが、そう易々と日本へと帰れないのが「アジア」のステージ。決勝戦の最終盤では守備対応を誤りヒヤリとさせた。

 「やはり、決勝にあったように、クロス対応の部分は自分の課題として残っています。自分はもうパリ五輪を意識しないわけにいかないですし、五輪のメンバーに選ばれたいと思っている。そのためにするべきはレイソルでの活躍やアピールが一番だと思っていますし、レイソルで、Jリーグで、課題を解決していかないといけない」

 そう気を引き締めていた関根。公式優勝写真にも堂々「いいポジショニング」で写ってみせるなど、「人生を変えた」大会への感想を求めると最高の笑顔でこう答えた。

 「本当に最高でした。ずっと『あの景色』を見たくて、自分たちは1ヶ月前にカタールへ飛びましたから。最高の結果を掴めて幸せです…この大会を一言で?…『最高!』」

 一方、柏レイソルでも同代表でも「エース」という看板を背負いながら戦ってきた細谷には、「キャリアを懸けた戦いでもあった?」と問い掛けると静かにうなずいた。細谷は再び口を開くと、U-23イラク代表戦のゴールについて振り返ってくれた。

 「イラク戦のゴールは藤田譲瑠チマから素晴らしいボールが自分へ来て、良いタッチでそのボールを収めることもできた。試合の流れ的に良いゴールだったと思っていますし…自分の今後に繋がっていくゴールだったと思っています」

 そして、細谷もまた関根と同じセリフを含みながら、この先を見据えた。

 「これからまたレイソルに戻って、今度はレイソルでもチームに貢献して、ゴールという結果を残すことで、最終的にパリ五輪のメンバーに選ばれるようにやっていきたい」

 中東の地で、痺れる体験した若者2人がレイソルへ帰ってきた。私たちの街へ帰ってきた。では、存分に見せてもらおう、アジアチャンプの妙技を。


 そうだ、細谷から「もういいよ…」と言われてしまう前にここへ書いてしまおうと思ったストーリーがある。

 それは「細谷真大とカタール国」。

 2018年、カタールで開催された「アルカス・インターナショナル・カップ」へ特別編成の柏レイソルU-17チームとして出場していた細谷は、衝撃の5ゴールを決めて大会最優秀選手賞を受賞。自身の価値を示して、その後のサッカー人生をこじ開けたのだ。

 また、そのチームのGKを務めていたのは、他ならぬ小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)。小久保も最優秀GK賞を受賞して、モノの違いを見せつけただけでなく、ポルトガルの名門ベンフィカのスカウトのハートを射止めてみせた。

 2024年1月には、日本代表チームの一員として「アジア杯カタール大会」にも出場しているなど、何かとカタールと縁がある細谷。出発前にはこんなことを話してくれていた。

 「カタールでの大会…良い思い出も、そうではない思い出も、自分の中にありますが、また良い大会にしたいし、チームのために、今の自分を全て出し切るつもり」

 少しやきもきさせてはくれたが、最終的には両手を両耳に当てるレイソルサポーターにはお馴染みのポーズ。「チームが苦しい時にゴールを決めて結果を出す」という細谷が描く「エースの姿」に相応しい活躍でパリ五輪出場権獲得に貢献してみせた。「雑音」だってねじ伏せた。

 ちなみに余談であるが、細谷は2022年のカタールW杯の優勝国を大会前から「アルゼンチン」と断言し的中もさせていたりもする。その際は「どうだ!」と凄まれただけでなく、「次はオレ?当たり前だ」と謎の力に変えていた。

 「やはり、カタールには縁がありますね?」

 細谷はやや眠そうな、いつもよりくぼんだ目でこちらを見据えてまた何度かうなずいた。

 「また『カタールの大会』へ来て、今回は優勝で終わることができた。自分もそうですし、ブライアンもそうなんですが、『カタールには縁がある、強いな』って感じていましたし、今後はカタールだけでなく、どこの国のどこの大会でも、自分の力を発揮することができるような選手になりたいですし、相応しい活躍をしていきたいですね」

 2010年代後半当時のレイソルアカデミーがアジアで熱戦を繰り広げていたトップチームに負けじと、積極的に「柏から世界へ」と東アジアを中心とした国際大会へ打って出ていた1つの成果が、彼らの勇姿や偉業達成によってまた特別な成果を成したことは実に誇らしい。

 いよいよ、次は「世界」だ。

 「では、関根は?」ー。

…次項へ続く。

(写真・文=神宮克典)