ヒーローはここにいる ー川口尚紀

レイソルコラム

 4月12日、三協フロンテア柏スタジアムで開催された浦和レッズ戦。私たちの柏レイソルは72分に生まれたFW木下康介のゴールで快勝。スタジアムには久しぶりの勝利の凱歌が響き渡った。

 その一戦で我々の胸を熱くしたのは右SBの川口尚紀。実に昨夏以来のスタメン出場となった川口は浦和の強烈なサイド攻撃を封じる仕事でチームの期待に応えた。

 「DFラインの1人としては、失点ゼロに抑えられてよかった。対峙する選手がドリブルなど攻撃的な特長のある選手だったというところで、ドリブルをさせないことや裏をケアしていくところはとても大事な役割だったので、そこでやられなかったことは大きかった」

 アルビレックス新潟の攻撃的右SBとしてレイソルと対戦する中で、ネルシーニョ前監督の目に止まり、レイソルへ期限付き移籍加入した2019年夏。スピードやとクロス、アシストなどの質の高さで即座にチームにフィットするとJ1昇格に貢献。時にはCBで抜群のデュエル(1対1)からのボール奪取能力を披露するなど、欠かせない選手の1人となりながらも、昨夏から進むチームの再興期の中でプレータイムは減少していた。

 無論、この夜に、この浦和戦に懸ける気持ちは特別なものがあったという。

 「今日は久しぶりの試合で、久しぶりのスタメン。最後のスタメンとなると、昨季の勝てなかった時期。自分に代わった選手が起用されて、チームが勝ち出したという経緯もあったので、『今日は自分の今後を占う試合になる』と思って試合に臨んでいた。自分のプレーがどうのこうのというよりも、『チームが勝ったこと』と『自分が試合に出ても勝てるんだ』ということを証明できてよかったです」

 ボールを保持する浦和。ピッチを駆けるボールと共に歪み出す浦和の陣形に睨みを利かせながら、全員が連動。網を放つような守備からの攻撃を狙うレイソルという展開。立ち上がりこそ、右SBらしく浦和陣内に進出していた川口だが、次第に左SBのジエゴ、マテウス・サヴィオや戸嶋祥郎、小屋松知哉たちにアタックを任せ、右サイドでの強度のあるデュエルとスピードを活かした背後のケアに奔走。その後も人を代えて繰り返された浦和の攻撃を封鎖した。

 まさに「マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)」級の働きで勝利に貢献した川口は今日までの自分をこう振り返った。

 「このチームで戦うために何が必要なのか、どうすれば、自分は試合に関われるのかをずっと考えながらここまでやってきたつもり。結果的に、今日はそれらがうまく出せたし、自分が緊張しているのを感じてくれてか、チームのみんなが助けてくれました。今日はみんなに助けてもらえた結果だと思います」

 開幕から右SBで輝く関根大輝がUー23代表としてカタールへ経った直後の試合というアングルは先ずある。かつては川口も「そのチーム」の常連選手でもあった。クオリティは相変わらず高い。自分の現在地を受け入れて、挽回を期す経験値だって持っている。

 「競争は今までにだってチーム内にあったことですし、そこにはキャリアや年齢だって関係ない。関根は関根で素晴らしい選手ですし、片山瑛一選手だって、本当に素晴らしい選手。まだまだ他にも良い選手はいる中でも、試合に出られるのは1人で、自分は『その1人』に選ばれるための準備をしてきたつもりです」

 試合後には犬飼智也が川口を見つけて深い抱擁を交わすと、J1リーグでは実に7か月ぶりとなるスタジアムでの「勝利のカーテンコール」の最中には立田悠悟と守田達弥が「ヒーローがここにいるよ!」とゴール裏サポーターへアピール。川口は控え目に静止した。彼らに三丸拡を交えた面々は日頃からジムに籠って肉体改造に励む「三丸道場」の同志たちでもある。

 川口が元々備えていた非凡なデュエルの能力に鍛え抜かれた身体が相まってMOM級の好パフォーマンスを生み出すこととなったのかと問うと顔を綻ばせた川口はこう話した。

 「MOM?いやいや!自分は何もしていないですって!日頃の筋トレの成果が良い結果を?『三丸道場』ですね(笑)?三丸会長にも感謝しないと!報告しておきます!」

 初夏の連戦はこれから本番を迎える。川口が残した最大の「大仕事」は自身の価値を再び高めるだけでなく、出場機会を窺う多くのチームメイトたちを刺激したことではないかと思う。連戦、そして、年間を一定のメンバーで戦うことなどほぼ不可能だ。この日、川口が成し遂げたことが持つ意味は結果以上に大きく、クラブの今後を占う出来事でもあった。

 後日、「その後はどう?」と話を聞こうと川口を待つが、同志たちとジムから出てこない。きっと、ヒーローはまた強くなる。

(写真・文=神宮克典)