「ほんのちょっとの差」をめぐるストーリー -落合陸 

レイソルコラム

 今シーズン、柏レイソルより水戸ホーリーホックへ期限付き移籍したMF落合陸。3月2日のJ2第2節ヴァンフォーレ甲府戦では開幕戦に続きスタメン出場を果たした。

 2024シーズンを共に白星発進した水戸と甲府。「J2の雄」と言えるような両クラブの一戦は白熱したものとなったが、後半に2ゴールを奪った甲府が粘る水戸に競り勝った(1-2)。

 落合は「トップ下」で攻守を牽引。甲府がボールを持ち、水戸が組織的なボール奪取からの速攻を狙う展開から始まった試合の中で、落合は適切な強度を持った守備で甲府の攻撃の入口を制限する任務をこなし、攻撃に移れば、スペースを見つけてボールを呼び込み、アイデアのあるパスを放った。落合の働きは水戸の攻撃にリアリティを生み出していたのだが、チームを勝利へと導くことはできなかった。

 「前半、試合の入りや戦い方は良かった。問題は後半の2つの失点だった。失点の仕方や時間帯が良くなかった。甲府が外国人選手たちを中心に攻勢に出てくるのは想定していた。自分たちにとっては攻撃の厚みを出そうと戦っていた中でもあった。その問題を解決していきたい。守備も陣形も上手くコントロールして戦えていた。甲府との差は『ほんのちょっとの差』だったとは思います」


 どのポジションで起用されようとも、ピッチにいる選手たちが攻守に貢献することは現代サッカーの掟、その1ページ目にあるタスク。猛者・甲府に対してその姿勢はチーム全体で表現できていたが、攻撃の中心を担う落合は水戸が抱える課題をこう話した。

 「チームとして今はまだ自信を持って攻撃をできていないことは受け入れている。自分が動き回ることは構わないし、続けていくが、仮に自分が中央にいても、ボールが動くことが理想。FWの安藤瑞季との連携からゴール前へ進むこともできている。自信を持って攻められないなら、自分が動いて助けにいくことで攻撃を良くしたかった。相手が嫌がっているのは感じていたので続けていきたい」

 統制の取れた陣形で、丁寧にボールを運び、甲府を押し込む水戸。丁寧が故に甲府の陣形も整ってしまうような状況にあって、ピッチ狭しと動き回り、打開を試みる落合は「自由」を与えられた数少ない選手にも見えたし、ややもすれば「異端」とも取れる。これはチームの攻撃の中心である「トップ下」を任される選手が必ず通る道でもある。今はチームに「落合陸」という選手を知ってもらい、落合も「チーム」を知る時期と言えるだろう。


 「練習では自分を上手く使ってくれて攻撃することができているので心配はしていない。試合ではまだボールを出し辛いのかもしれませんけど、今日も中央での崩しから良いシーンを作れていたので、また良くなると思う。自分も相手の嫌な位置を見つけてはいたが、常にそこへ立ててはいなかったので、今日の試合や攻撃の内容は教訓とすべきだと思っています」

 選手としての自覚も、ピッチで表現するビジョンもありあまるほど持っている。水戸から寄せられた熱心なオファー、その期待に応えたいという思いも強い。選手として様々なスペックを持つ落合だが、彼の最大のスペックは常に自分を信じられることと、自分を信じてくれた人たちへの忠誠心。まだ水戸でのストーリーは始まったばかりだが、そのマッチングは上々のように映った。

 「濱崎(芳己)監督からの理解もあって、自分は水戸で攻撃の中心としてやらせてもらっています。自分も『そんな状況でプレーをしたい』と思って水戸に来た以上は、その責任というものも背負って戦って、チームと共に成長していくというテーマが自分にはある。見ての通り、水戸は若いチームですし、士気も高く、団結しています。キャンプから一緒にプレーしてみて、みんなの能力だって高いと思うし、『J1昇格』という目標を掲げたチームなので、その目標に貢献したい。リーグ戦もカップ戦も、全ての試合に出場していきたいし、今はピッチで戦えることに対しても幸せを感じています」


 J1よりも簡単ではないと言われて久しいJ2。その猛者との対戦で見えた「ほんのちょっとの差」を落合がどのように埋めるつもりなのか、今後に期待したくなる取材だった。

(写真・文=神宮克典)