あの12月の「国立競技場の夜」から2ヶ月あまりが経った2月18日の午後、快晴の三協フロンテア柏スタジアムにて柏レイソルとジェフユナイテッド千葉によるプレシーズンマッチ「第28回ちばぎんカップ」が開催された(1ー2で敗戦)。
新シーズンが始まる。日立台と鹿児島県指宿市で高強度のトレーニングを積んできた新チームの面々からはチームとしての結末を感じた。
だが、ここまでは概ねどのJ1クラブも似たような状態だと思う。前向きにまだ見ぬ開幕を待つ。そんなタイミング。
現在のレイソルには昨季後半から腰を据えて積み上げてきた「ベース」がある。喩えるならば、「良く連動した全体守備から特長を活かした攻撃」か。「ちばぎん」ではこの「ベース」を発揮できていなかったように映るのは少しばかり気になるが、このあたりの差異も毎年感じる要素だったりする。
では、何が昨季との違いを生むのだろうか?
適材適所の補強?モダン戦術?最新の言語化?
おそらく、その全てだ。
それらにプラスして、「何がため、そこに立つのか?」という気持ちの整理や自覚が必要だ。試合が美しくも、泥臭くも、構わない。モダンでもクラッシックでもなんでもござれではあるが、問われるのは誇りや自覚ではないか?時代と逆行する少し古臭い考えかもしれないが、あの国立競技場で選手たちが放ったその部分に胸を熱くした。少なくとも私は。
そんなアングルから3人の選手たちに話を聞いた。
まずは昨季、自身の価値を証明してみせたMF山田雄士。今季から背番号6を付けた山田はピッチの中央付近で輝くことよりも、右サイドに独自のクオリティを放つことで、昨季、必要不可欠な存在となって久しいが、「ちばぎん」の試合後には自分たちに強烈な矢印を向けた。
「勝つための仕事を、生え抜きの自分たちがしてみせて、『勝てる柏レイソル』というものをみなさんにお見せしたいし、自分はレイソルに特別な愛着がある。ここで育って、プロ選手にしてもらった恩返しの気持ちを常に持ってプレーするのは今季も変わらないが、技術や戦術云々の前の問題で千葉に敗れてしまった。これではいけないという気持ち」(山田)
2人目はMF白井永地。白井はレイソルアカデミーで自身を磨き、J2水戸でプロデビュー。岡山と徳島を経てレイソルへ帰還したMF。いずれのクラブでも欠かせないMFとなって活躍してきた。
今回の帰還の際には前所属クラブの徳島で監督を務める吉田達磨氏から「自分で掴んだチャンスだ。おめでとう。行ってこい」と送り出されたという。キャリア的にも最愛のクラブのエンブレムを付けて戦う価値を知る選手だ。帰還の感慨に浸るのはもう終わりだ。
「レイソルに帰って来られただけでなく、自分にとって初の挑戦となるJ1リーグに臨むことなど色々なものがあるのですが、再びこのエンブレムを付けた以上は、柏レイソルというクラブが良い方向へ進むことが何よりも自分の最優先。そのためにここへ帰って来ましたし、自分の持っているものの全てを捧げるつもりです」(白井)
そして、最後はキャプテンのDF古賀太陽。12月の国立では予定よりややこじんまりとした楯を持ち帰るに終わった。その借りもそうだ、キャリア的にも一旗挙げるに良い頃だ。そんなシーズンを前に古賀は今季の覚悟をこう話した。
「今季は『7位以上を』という設定があるのですが、レイソルはもっと上を目指さなくていけないクラブ。簡単なことではないですが、そんな集団であるべき。昨季からいる選手たちは『タイトルを』という強い思いもある。『再び、あの場所へ』との意識を持って臨みたいし、あの試合を『悔しかった』で終わらせたくない。新加入選手を巻き込んで、常に上を目指していくつもり。その自覚が試されるシーズンになる」(古賀)
この彼らは「レイソル育ち」の面々だが、レイソルに集まった選手たちが、様々な変遷を辿り集まった集団であることは百も承知。プロとして、ただ勝利を目指すことだって、キャリアや競技的ステータスを豊かにするために戦うことだって、少ないチャンスのために戦う選手だってリスペクトする。新しい選手たちが序列を座組みを塗り替えることだって大歓迎だ。
今はまだチャレンジや調律が必要な段階ではあるが、どんな試合に対しても、レイソルの選手たちが「何がため、そこに立つのか?」を示す戦いを期待しているし、その中から「レイソルのエンブレムのために戦う」、そんな選手が1人でも多く出現するシーズンを期待する。
(写真・文=神宮克典)