「元日。国立。細谷真大」

レイソルコラム

 我らがエース・細谷真大の長かった2023シーズンは2024年元旦で幕を閉じた。

 J1リーグでは14ゴール(リーグ5位タイ)を記録し、国内の全ての大会でゴールを決めた。大黒柱として活躍するUー22日本代表でも結果を積み上げて、11月には日本代表でも初ゴールを決めた。そんなステータスを持つ選手となれば、このスケジュールは当たり前のことなのかもしれない。

 2024年元旦開催の「TOYO TIRES CUP 2024」タイ代表戦へ臨む日本代表され、大会へ向けた合宿の中でも堂々とした振る舞いを見せていた。順調に調整を続けた大会前日には森保一監督が「細谷が先発することになる」と起用を予告するサプライズもあった。

 明らかに風は吹いていた。

 森保監督の「スタメン予告」後に開かれた細谷の囲み取材。マイクを向けるのもひと苦労するほどの記者たちを集めて、細谷はこう意気込みを話した。

 「練習を重ねる中で、『…あるな』と感じていた。この試合は『自分の今後』に大きく関わる試合になる。爪跡を残せるような結果を残したい。自分は『できる』と感じています」

 そして、翌る日ー。

 6万人を超えるサポーターたちが詰めかけた元旦の国立競技場。細谷の名は日本代表の先発選手たちの最後にアナウンスされた。

 「背番号11!細谷真大!マオ・ホソーヤ!」

 日本代表がボールを支配してタイを押し込む予想通りの展開。前線の中央に構えた細谷は左右に流れることなく、堂々とゴール前中央で勝負した。これは今季の細谷がこだわり続けて極めた部分であるし、フィットしていた。細谷の定規は徐々に代表モードにアジャストしていたようだ。

 「クロスに対してニアサイドを取ること。ゴールをイメージしたポジショニングを取ることを考えていた。あとはタイミング。ニアへ入り過ぎてしまっても苦しくなってしまうだけなので。このあたりはもっと高めていきたい」

 DFに首根っこを掴まれようとも力強くボールをキープしていたし、チャンスに一番乗りするスピードも、失ったボールを絶対に取り返す獰猛さも、「(パスを)出せ!」と吠える様子もいつも通り。ノーゴールに終わりながらも、ゴールチャンスにはほぼ細谷の姿があった。やれることはやった。まあ、こんな日もある。

 ただ、いつもと少し違ったのは右サイドには細谷を凌ぐ「スピードスター」がいたことか。そう、伊東純也である。

 2人は前半から好機を構築していた。右サイドで見せてくれた2人の連携には込み上げるものがあった。空中でボールを収めた細谷のヒールパスに伊東が反応してシュートへ至った。あのシーンを見られただけでも満足だった。そう話すと、細谷は少し吹き出してから手応えをこう話した。

 「しっかりとボールを呼びこめて、ワン・ツーも上手くいった。良い連携ができたと思います。純也くんとの関係性も、もっと高めていけたらと思います」

 だが、細谷の真横でいくつかのゴールが決まるシーンもあった。目の前に広大なスペースが広がる中でのボール奪取から、細谷がスタートを切ろうにもボールは出てこなかったことなども含めて歯痒さも残ったことだろう。そもそも、自ら、「自分の今後に関わる試合。自分はやれる」と臨んだ試合でもあった。

 「やはり、『ゴール』は欲しかった…チームは勝てましたけど、自分はこのチームでの立ち位置は一番下ですから、結果を出さなくてはいけなかった」

 そう後悔を口にしながらも、決してへりくだらずに自分の言葉を放つ姿を見る以上、自分の中の感触は私たちが感じている以上のものがあったかもしれない。表情も晴れやかなものだった。

 「もうちょっと自分の頭にボールが当たってくれていたらなと(笑)。ボールを背後へすらず意識が強過ぎたんで。ボールは触れていたし、チャンスにも絡めたのは自信になりました。今日のように独特の雰囲気の中、たくさんの方々の前で試合をできることや駆けつけてくれた家族の前でプレーできて楽しかった。こんな素晴らしい機会をもっと増やしていきたいですね」

 そう話した数時間後、細谷にまた新たなスケジュールが決まった。

「AFCアジアカップ・カタール2023」出場メンバーに選出されたのだ。

 いよいよ細谷がこの素晴らしいチームの一員としてアジア杯に進出する。もう、ここで全てを言及しないが、「細谷と中東」の親和性や相性を知る人たちは、きっと次のストーリーの展開に胸を踊らせているはずだ。何を隠そう、私もその1人だ。

 細谷は元旦の国立競技場で「今の細谷ができること」を表現した。ならば、私も「今、できること」を純粋に表現することにした。

 私は細谷の登場を待ちながら、「ジェー(柏担当者風の伊東の愛称)」を探した。すると、前日の細谷以上に多くの報道陣を集め、何やら話している選手がいる。

 「ジェー」だ。

 しばらくの間、その様子を眺めてから、取材対応を終えた「ジェー」の足取りをうかがう。代表の報道陣には「IJ」と呼ばれていることに少し驚きながら。そして、相変わらず、歩速も速い。

 前半の連携も然り、後半の猛攻の中でも伊東の高精度クロスの照準はワントップの細谷に合っていた。私はそうやって少し勝手な絵を描きながら試合を楽しむ質。私だって、近い将来に中山雄太や中村航輔からのフィードを起点に発動する両雄の爆速カウンターを目の前で楽しみたい。そんなイメージを抱きながら、試合を眺め、どうしても聞きたいことがあった。

 「ジェー」が来た。

 少しニヤリとしながら、こちらに気付いたタイミングで間髪入れず柵越しに向き合うと、ひと言投げ掛けてみた。伊東との会話はベルギーへ旅立った2019年1月の成田空港以来となる。

 私が伊東へ投げ掛けた言葉はシンプル。

 「ジェー、マオはどうですか?」

 すると、伊東は思いのほか滑らかに細谷について話してくれた。

 「うん、マオはまだ若い選手だけど、体も強くて、全体的に身体能力が高い選手だと思うし、シュートのパンチ力もあるなって思いますよ。今日はマオとお互いを使い合って何回かチャンスを作り出せていたし、裏や背後へのスルーパスにも上手く反応してくれていた。これからまたそういったシーンを作れたらいいなと。自分が知っているレイソルアカデミー出身の選手たちはもっとテクニックがあるタイプが多い印象ですけど、マオはどちらかというと、『身体能力タイプ』。タイプ的にはちょっとオレに寄せてきてるよね(笑)」

 時間にしたら、ほんの数分のコミュニケーションだったが、その言葉が聞きたかった。マオをよろしく!そんな暖かい気分を抱きながら国立競技場をあとにした。

 11月にサウジアラビアでのシリア戦で細谷の日本代表初ゴールをアシストした、この「日本代表史上最強」と謳われるこのチームの大看板・伊東純也と、約1年前に語ってくれた「日立台でずっと見ていた。いつか伊東選手との一緒にプレーを」との夢を叶えた柏レイソルのエース・細谷真大。この2人のストーリーにもまだ続きがありそうだ。

(写真・文=神宮克典)