今回は、早くも2025年の最重要作となること間違いなしの日本映画をご紹介します。『敵』は、筒井康隆の同名小説を、『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が、長塚京三を主演に迎えて映画化した作品です。昨年の東京国際映画祭では最高賞に輝き、監督賞と男優賞も併せて受賞しました。
渡辺儀助、77歳。元大学教授で、専門はフランス近代演劇史。妻に先立たれ、預貯金額をもとにあと何年生きられるかを計算しながら、ひとり余生を淡々と過ごしています。それでも、こだわりの食材で料理をつくって晩酌を嗜んだり、たまに友人やかつての教え子に会ったりと、ささやかながら幸せな生活を送っていました。そんなある日、パソコンに「敵がやって来る」という不穏なメールが送られてきて…。
撮影当時、奇しくも役と同じく77歳だった長塚京三演じる儀助の佇まいには、年老いていながらも依然として知的さと上品さが感じられます。 しかし、そんな彼が「敵」に翻弄され、怯えるからこそ、我々観客にもいつの日か迫りくるかもしれない「敵」の恐ろしさが浮かび上がってきます。
全編モノクロで映し出される、不可解で不気味な世界をぜひ当館で体感してみてください。
(キネマ旬報シアター 長谷部)