Toukatsu-Mainichi「ジェッツ記」・[02:2024年10月20日Bリーグ2024/25第3節:10月20日vs京都ハンナリーズ(LaLa arena TOKYO-BAY)]

ジェッツ記

 私にとって2試合目となる千葉ジェッツふなばし取材は京都ハンナリーズとのゲームとなりました。

 前日はジェッツの勝利というシチュエーションで迎える取材日は初回の宇都宮ブレックスの際と同じ。ご用意いただいた記者席から見える景色は相変わらず賑やか。「MAKE NOISE!」のサイネージがアリーナに点滅するが、その前からアリーナの盛り上がりは素晴らしい。

 だが、この日の対戦相手の京都は全くはんなりとはしていなかった。どちらかといえば、いかつい。京都の言葉では「てんこつ」というらしい。

 立ち上がりからコンスタントにシュートを沈めてリングを揺らしていく。対する千葉ジェッツは細かなミスやリズムの悪さが目立った。前半終了時点での”千葉33-42京都”というスコアには少々混乱してしまった。

 ただし、それは前半の話ー。

 後半は”千葉35-15京都”と試合をひっくり返し逆転勝利。特に第3クォーターの猛攻は印象的なものがあった。4ポイントプレーで流れを変えたクリストファー・スミス選手とD.J.フォグ選手のの2人で30点をマーク。富樫勇樹選手と原修太選手は30分を超えるプレータイムで、ジョン・ムーニー選手は15リバウンドで勝利を支えた。たま、ただ攻めれば勝てるほど甘くはない領域の戦い、チーム全体の守備強度は明らかに京都の攻撃を上回っていた。

 ”68-57″というロースコアのゲームだったが、反撃に出る千葉ジェッツの勇ましさや選手層の厚さ、時間と共に表情を変えた試合展開が印象的なゲームだった。

 試合を終えて記者会見場に現れたトレバー・グリーソンヘッドコーチ(HC)は「…フゥー!」と肩で息をする素振りでおどけてみせた。その仕草は「やれやれ…」といった具合。

 そして、マイクへ向かい、試合をこう総括した。

 「選手たちの努力や一生懸命さが結果に繋がった試合だ。まだ、2日連続で同じ相手と戦うことに慣れていく時期でもある。戦術的な部分も探っていかなきてはいけない。前半はスローでターンオーバーも目立って、リバウンドにも行けていなかったし、ディフェンスもできていなかった。ハーフタイムではチームに『前半に起きたことはいくらかけても買い戻すことはできない。後半は千葉ジェッツのバスケをしよう。もっとできることがあるはずだ』と話した。後半は素晴らしいディフェンスとプレー強度、お互いを助け合う戦いぶりが特別だった。そのように思っている」

 その後、トレバーHCは前半の選手交代や選手たちの対応力に言及。選手たちの姿勢に対して「彼らは誇らしい」とまで言い放っていた。そして、京都側の得点や攻撃のデータを挙げながら、どう対応したのかについても詳らかに話してくれた。

 せっかくの機会なのでトレバーHCに話を聞かせてもらった。

 まずは会見冒頭の「フゥー!」について確認。

 ニヤリとしたトレバーHCはこんな質問に対しても真摯に対応してくれた。

 「『報われた!』、『ホッとした!』という感覚。そして、やはり『うれしかった』という気持ちからのアクションですよ。今日はタフなゲームだったからね!『勝ててよかったな』ってね。そんな気持ちが出てしまったんだ」

 私がトレバーHCに聞きたかったのは特に難しい内容ではなかった。日本で指揮を執るヘッドコーチにこの千葉ジェッツを応援するブースターたちが作り出す雰囲気について聞きたかった。

 LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ)を赤色に染めて、健気にリズムを刻み、約2時間に渡って、「GO! JETS!」と「DEFENSE!」のコールを繰り返す、この空間が生み出す観衆の声や手拍子はチームの力となっているのか?


 「もちろん、アメージングな光景だよ!昨日も今日も10,000人を超える観衆がここに集まってくれたことは素晴らしいことです。しかも明日は休日や祝日ではないわけですから。常にこれだけの方々が足を運んでくれることも素晴らしいと思っています。特に今日のゲームの後半、良いディフェンスがあれば、すごい声援が上がり、得点に繋がれば、さらにすごい声援をくれました。それらのリアクションというのは選手たちに強いエナジーを与えてくれるもの。その素晴らしい雰囲気は自分たちにとって良いアドレナリンになっていますし、逆に対戦相手からしてみれば、『流れがジェッツにあるな…』と感じてしまうほどの迫力があると思うんです。ブースターたちはすごく大きな影響を作り出してくれていますね」

 私の問いと向き合ってくれたトレバーHCと高速トランスレートで対話を成立させてくれた阿部桃ニ香通訳に感謝なのだが、私が「コート上」そのものではなく、「側(がわ)」に関心を寄せたのは、この会見から遡ること3時間ほど前。

 千葉ジェッツふなばしの田村征也社長の会見に参加できたからだ。

 会見の主旨は、この週に交付された「B.LEAGUE PREMIER(Bプレミア)」ライセンスに関するものだったが、田村社長とコンタクトできるせっかくの機会。千葉ジェッツというクラブが持つモチベーションについて聞かせていただいた。

 まずは前項でも触れた「ブースター(ファンたち)」が構成している強力なファンベースについての手応えに興味があった。

 このせっかくの機会で、「まずは地元・千葉を大事にしながら輪を広げることができたら」という考えを持つ田村社長にこのことを問うた。

 「千葉ジェッツのファンベースの手応えについては、私たちも2年前から、『IDの獲得』という目標を立てて進めてきました。当初の目標として立てていた、『20万ID獲得』という点については、ららアリーナ完成前に達成することができました。2023年W杯を境に急激に数字が向上しています。また、私たちが運営しているファンクラブ『ブースタークラブ』についても、締切が必要なくらいの会員様が増えています。ファンベースの拡大についてはそのような手応えがあります」

 開幕から、ららアリーナのてっぺんの席までを埋めてしまう強力なブースターたちの熱意に支えられている千葉ジェッツ。20万を越えるアカウントがひしめくファンベースが、約10,000枚のチケットを取り合うわけだから、基本的にチケット入手は困難。相変わらず試合当日まで公式リセールサイトも動きが盛ん。おまけに最も肝心なコートでの「結果」もついてきている。頑強な地固めは着々と進んでいるようだ。

 そして、もう一問聞きたいことがあった。

 「Bプレミア」ライセンスを手にしたクラブであり、Bリーグを牽引する存在と言っていい、千葉ジェッツの舵を取る田村社長に「プロ野球やJリーグやサッカー日本代表といった歴史ある他競技とどのように共生していくのか」を聞きたかった。

 「他競技の存在に関しましては、まずそれぞれの良さがあるものだと思います。ただ、私たちは『お客様たちの話題の中にどれだけバスケットボールの話題が出てくるのか?』が何よりも重要だと考えていまして、今回、渡邊雄太選手が千葉ジェッツに加入したことによって、今季の開幕戦について多くのメディアに取り上げていただけた。そのおかげで、『バスケットボールの話題』が出やすくなっている状況ではある。そういった話題を絶やさずに作っていくことで、他の競技に興味を持つお客様方に少しでもバスケットボールへの興味を持っていただいて、『まず一回観に来ていただく』ということがすごく重要。そこへ繋げていく努力することが、バスケットボールを選んていただく理由となっていけばと思います」


 千葉ジェッツの着実で力強い歩みは千葉県内や日本のスポーツ界を、それを愛するファンやブースターたちをより豊かにするだろうし、他競技を越える急成長は続いていくだろう。かく言う私も千葉ジェッツが刺さってしまった1人。フレッシュな衝動がここにあることを知っている。

 外を見れば、野球を見て、フットボールを見て、バスケットボールを観る国もある。サッカーを見て、テニスやバイクレース、サイクルロードレースに熱狂する大陸だってある。何事も選択肢が豊かな方がいい。

 「野球やサッカーとはシーズンもずれていますし、私たちは『屋内競技』。アドバンテージとしてあるのは、『天候に左右されずに観戦できること』。安全性や日差しも浴びずにいられるなど、ファミリー層に届きやすいアドバンテージを持っていると思っているので、引き続きそのあたりの強みを全面に押し出して、新しいお客様の獲得を続けていきたいですね」

 何より素晴らしいと感じたのは、「他所がどう」ということではなく、丁寧に自分たちを見つめて、見つけた強みにフォーカスできる強さが流れていることか。それを知れただけでも貴重な取材機会となった。

 それにしても、取得ID数が20万越えとは恐れ入った。

(取材・文=神宮克典)