眼中之人《書の力 第49回》

ふれあい毎日連載

青山杉雨(あおやま さんう)(1912-1993)
「眼中之人(がんちゅうのひと)」 昭和59(1984)年
105.0×106.7㎝ 紙本墨書 一面
成田山書道美術館蔵

眼中之人(がんちゅうのひと)とは、常に心で思っている人、親しい人を表す言葉です。方形の紙に、縦長に構えた「眼」と「中」をまるで一文字かのように接近させ、それに対応するように、左上の小さめな「之」の下に足の長い「人」を配置しています。

造形美を意識しているのでしょう。文字ですが、画のようにも見えます。余白の白をすっきりと見せ、明るい作品です。

素材になるのは、殷周時代の金文(きんぶん)(青銅器に刻まれた文字)です。線に太細の変化がなく、整然としたものですが、杉雨はそれに文字の大小や墨の潤渇、筆の速度や圧力の変化を加えることで文字に動きを出そうとしました。歴史的背景を理解した上で、現代の書を探求した杉雨の思想が作品に表れています。

この作品は当館で2月22日から4月20日まで開催する「収蔵優品展 篆・隷・楷・行・草・仮名-書体をめぐる書の表現」に出品します。その他に、鄭道昭(ていどうしょう)の楷書「鄭羲下碑(ていぎかひ)」(拓本)、王羲之(おうぎし)の行書「集王聖教序(しゅうおうしょうぎょうじょ)」(拓本)、良寛の草書「七言絶句」、伝紀貫之の仮名「名家家集切」などをご覧いただけます。様々な書体の魅力や書の表現の広がりを味わってみませんか。(学芸員・田村彩華)