K太せんせいの放課後の黒板消し54

K太せんせいの「放課後の黒板消し」

 未曾有の夏に咲いた花

 新型コロナウイルス感染症による休校がやっと開けたと思ったら、いつ明けるかわからないほどの長梅雨となった7月。例年ならば期末テストを終えて夏休みに突入し、合宿やら臨海学校やら大忙しになる時期なのですが、今年に限ってはまだまだ学期途中でした。

 そんな7月の中旬のこと、いつものように朝のホームルームに向かうと教卓の上に花が飾ってありました。豪華なお花ではなく、一輪挿しに凜としたたたずまいの花。

それは茶道部の生徒が生けてくれた、担任の私への「祝いの花」でした。一学期が長引いた結果、担任の誕生日が授業期間と重なったために起こったうれしいサプライズ。花のみという粋な演出に、一時、コロナ渦中であることを忘れ、清々しい喜びを感じました。

そしてその日の帰りのホームルーム。今度は教卓に他クラスの生徒まで混ざった黒山の人だかり……。「ホームルームの時間だぞ!」と叱りかけたその時、パンッという音と共にキラキラとした花が宙に舞いました。

卓上にはコンビニのケーキとブロックでできた手のひらサイズのかわいらしいパンダ!?。クラッカーの花は一瞬だったけれどきらびやかで美しく、プレゼントも「みんなで10円ずつ」といった風情で、だからこそそれがとてもうれしくて。

 ささやかでも、心温まるしあわせを贈ることのできる彼らならば、暗いニュースの多い世の中にあっても、どんな事態も乗り越えて行かれると確信した出来事でした。

 さて、今度は一転猛暑となった8月。今は社会人となった卒業生が夏の挨拶を兼ねて会いに来てくれました。聞けばコロナ渦で出張が延びてしまったとか。そこで相談されたのが、友人の誕生日に贈り物をする計画があり「今読んでほしい本」を選んでいるとのこと 読書の大切さを彼らに伝えてから約10年。その種がいま花開いていることに感激しつつ、素敵な友情が続いていることにも温かなものを感じた、ちょっとうれしい、夏の日の出来事でした。

■K太せんせい

現役教師。教育現場のありのままを伝えるコラム。