他人の靴を履く
新学期が始まりひと月が経ちました。新一年生たちのパリパリの制服も自然な着こなしになり、ピカピカの靴たちも馴染んできます。
学校によっては登下校時の靴、校内履きや上履き、運動靴、体育館シューズと3~4足を使い分けており、その上運動部に入れば競技用の靴も加わるので大変です。
さて、日本では昔から、この「履き物」を用いたことわざがいくつかあります。たとえば「二足の草履(わらじ)を履く」と言えば「本来なら両立し得ないような二つの職業を同一人物が兼ねること」を意味します。また「下駄(げた)を預ける」とは「自分が関わった物事の処置や責任などを誰かに任せること」です。
他にも、英語の定型表現では「立場」という意味でshoes(靴)が使われます。「K太せんせいの本棚⑱」で紹介した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の筆者、ブレイディみかこさんは、ある対談で次のようなエピソードを紹介しています。
英和辞典を引くと、シンパシーは「共感」、エンパシーは「感情移入」と出てきます。「シンパシーとエンパシーの違いについて答えよ、との問いに対する、うちの息子の答えは「to put yourself in someone’s shoes」(=他人の立場に立ってみる)。そうか、そうだよなあ、もうこれ以上、出しも引きも出来ないぐらいパーフェクトな答えだよなあと、私が逆にすごく感心させられました」。息子さん曰く「そりゃあね、履きたい靴もある。臭いのもあるし、ダサいのもあるし、サイズが合わないかもしれないけど、とりあえず履いてみることがエンパシーなんでしょう」と。
イタリアのことわざには「良い靴は履き主を良い場所へ連れて行ってくれる」があります。良い靴を履くとウキウキして外出したくなり、結果多くの出逢いや経験をするのだと。
新しい靴に磨きをかけて、初夏の街に出てみましょう。
■K太せんせい
現役教師。教育現場のありのままを伝え、読書案内なども執筆する。