医療最前線Drリポート

医療最前線Drリポート

日本大学松戸歯学部は歯科学を「口腔科学(Oral Science)」と捉え、医学の一分科としての教育を展開。最前線で活躍する歯科・医科のスペシャリストに、医療現場の現在と未来について連載でリポートしてもらう。

Drリポート195

歯並びを守る「保隙装置(ほげきそうち)

日本大学松戸歯学部小児歯科学講座

小児歯科学講座 教授 清水武彦先生
小児歯科学講座 専任講師 伊藤竜朗先生

小児歯科の治療を通じて、自然な生えかわりの時期を待たず歯を失ってしまうケースにしばしば遭遇します。例えば、虫歯やけがが原因で乳歯を抜歯したり、何らかの理由で乳歯が早く抜けてしまった場合などです。

この状態を放置すると、周りの歯(隣の歯や噛み合っていた歯)は支えを失い、歯が抜けた場所に移動してしまいます。本来そこに生えるべき永久歯のスペースが少なくなってしまうので、その後の歯並びに影響する可能性が高くなります。そのスペースを確保する治療のことを保隙(ほげき)といい、周りの歯が動かないようにする「つっかえ棒」の役割を担うのが保隙装置です。

保隙装置にはいくつか種類があり、抜けた歯の場所や本数によって適切なものを選択します。今回は固定式と取り外し式の代表的なものをご紹介します。

固定式の保隙装置

写真1右はバンドループ、左はクランループという装置で、前方の支えを失った歯が前へ移動するのを防ぎます。乳歯の奥歯が1本だけ欠損して、その両隣に歯が残っている場合が適応となります。土台となる歯に大きな虫歯がある場合はクラウンループを、小さな虫歯または全く虫歯がない場合はバンドループを選択します。保隙装置の中でもこの二つだけが保険適用となります。

写真1 バンドループ クラウンループ

写真2はリンガルーチといい、複数の奥歯が無い下顎に用います。左右の金属の輪っかをワイヤーがつなぐ構造をしているので、左右同時に保隙ができます。ここで取り上げた固定式の装置は保隙の確実性が高い反面、噛む機能を回復させることはできません。

写真2 リンガルアーチ

取り外し式の保隙装置

写真3は可撤(かてつ)保隙装置、いわゆる小児用の入れ歯です。取り外し式と固定式では、その長所と短所が反転しています。取り外し式は掃除がしやすく、噛む機能をはじめ発音や外観の回復が可能です。その反面、取り外せることがデメリットにもなり、紛失や破損、治療効果の低下などを招きます。したがって小さなお子様の場合は保護者が装置を管理する必要があります。

写真3 可撤(かてつ)保隙装置

定期検診が治療の始まり

保隙には定期検診が必須です。保隙装置が役割を達しているかどうか、装置周辺の清掃状態やむし歯や歯肉の腫れなどを定期的にチェックしていきます。

さらに歯の生えかわりに合わせて装置を変更したり、装置を外すタイミングを判断します。これを怠ってしまうと、将来の永久歯の歯並びを守る保隙装置が、成長の妨げになってしまうことすらあります。保隙装置を装着したら治療終了ではなく、むしろ治療はここから始まるのです。

■日本大学松戸歯学部庶務課 ☎047・360・9567。