機能訓練と免疫力を上げて誤嚥予防(DRリポート251回)
日本大学松戸歯学部有病者歯科検査医学講座 准教授 田中陽子先生

誤嚥性肺炎の予防にはお口を奇麗に保つことが大切ですが、筋力の衰えによる嚥下機能低下には筋力トレーニングです。口は沢山の筋肉で構成されています。普段からおしゃべりや歌などで口を使いましょう。新聞や本などの見出しを大きな声で読むのもいいです。
口の機能が低下したら
食べるのに時間がかかる、滑舌がわるくなったなどの症状がある方は口の機能が低下している可能性があります。歯の数も筋力・体力と関連しています。歯が少なくなると、軟らかな食品を摂るようになり口や全身の筋力は低下します。歯科医院で口腔機能検査を受けられると良いでしょう。
食べる動作は全身の筋肉を使います。姿勢が崩れると誤嚥もしやすくなります。全身の運動にはラジオ体操が便利です。地域で集まればコミュニケーションの場にもなり、お口や脳を使う機会が増えます。
食べる前に嚥下体操をするとより効果的です。首や肩を動かし、口をすぼめたり膨らませたりして、大きくはっきりと「あいうえべー(舌を出す)」と発声する体操などが絵や動画でネット検索出来ます。

ここでは高齢者に多く見られる咽頭残留に効果的で簡単にできる訓練法を2つ紹介します。朝、目を覚ましたら、起き上がる前に一運動。頭だけを起こして足の指先をみるだけです(図1)。起き上がったら第一声。「あー」と大きな声で一番大きな口を開けましょう(図2)。これらの訓練は気管の蓋(喉頭蓋)の動きを手助けし、食道の開きも良くします。

誤嚥への対応
誤嚥したらお口から食べてはいけないわけではありません。防御機能が上回ればいいのです。防御機能とは、喀出力(排出する力)、肺の換気機能、免疫機能です。気道には異物を排出するための線毛があります。咳は時速500~900㎞のパワーがあるので、誤嚥したらしっかり咽ましょう。線毛運動や咳は乾燥、喫煙、加齢で低下しやすいです。胸郭や肺の柔軟性を促す運動を日頃から心がけると良いでしょう。胸郭にはシルベスター法、体幹回旋運動(図3)が、肺には発声しながらの深呼吸が効果的です。

免疫力には栄養
体重の変化は栄養の指標になりますので、月に1回は測定すると良いでしょう。人は姿勢維持、精神的な緊張、呼吸、食べ物の消化・吸収など沢山のエネルギーを消費しています。筋力に必要だからとタンパク質ばかり摂取しても駄目です。吸収しきれなくなることがあります。バランスよく摂取することを心がけましょう。
それでも高齢の方はタンパク質が不足しがちですので普段の食事にプラス10gを意識しましょう。魚、肉、乳製品、卵など必須アミノ酸が多く含まれているものは効率よく筋肉が作られます。また高齢になると体内の水分量が減りやすいです。筋肉は水分の貯蔵庫でもありますので、筋力をつけておくことは脱水対策にも重要です。1日の食事などで800~1000ml摂取出来ていますので、飲料水としての補給は1000~1500mlを目安にしましょう。(※心疾患や腎臓疾患の方は医師の指示に従ってください)
■日本大学松戸歯学部付属病院☏047・360・7111(コールセンター)☏047・368・6111(代表)