海難者を弔う漁師たちの鎮魂の形 習志野市
習志野市で珍しい形の和凧「ドンザ凧」を長年作り続けている人がいると聞き、訪ねた。地元の花屋「ロータス・ブロッサム」店主の父で、漁師の松本和夫(84)さんだ。
「本当は絵描きになりたかった」と話す松本さんは船橋の漁場に生まれた。「漁師の父がドンザ凧を作るのを見ているうちに、作るようになった」。ドンザ凧は、着物のような独特の形をしていて、和紙に防腐のための柿渋を塗り、波や鳥、亀、鵜などを描き、糸は阿弥陀如来との縁を結ぶ5色の麻糸を使用。一つひとつ手作業で作られている。
このドンザ凧が生まれた背景には実は悲しい物語がある。昔、船橋の漁師たちは、海で命を落とした仲間の魂を鎮めるため、漁師が着る着物「ドンザ」を海に沈めた。
このドンザは、かつて漁師たちの仕事着であると同時に、刺し子などの装飾を施したものは特別な日の晴れ着だった。江戸末期には、弔いの時に紙で作ったドンザが追悼の意味を込め、空高く舞うようになったという。
「人に売ることは絶対にない」と語る松本さんにとって、ドンザ凧は単なる玩具や工芸品ではなく、海難者への供養が先祖から受け継ぐ大切な伝統なのだ。松本さんはこれを未来へ繋げたいと願い、子どもたちに向けてのワークショップの開催や小学校で巡回展示をしたりと、積極的に活動している。

松本さん宅に保管されているドンザ凧の一部を見せてもらったが、江戸時代から現代に引き継ぐ、漁師たちの気概と魂を強く感じた。昨今のコロナ禍を経て、空に舞う事はなくなってしまったが、再び習志野の空を彩ることを願わずにはいられない。
▼問☏047・451・1208(ロータス・ブロッサム)。
