Drリポート 210

医療最前線Drリポート

解剖の知見を総義歯の臨床に生かす

日本大学松戸歯学部 解剖学講座 教授 近藤信太郎先生

日本大学松戸歯学部 解剖学講座 専任講師 松野昌展先生

日本大学松戸歯学部 解剖学講座 教授 近藤信太郎先生
日本大学松戸歯学部 解剖学講座 専任講師 松野昌展先生

身体の構造と機能が分からなければ病気の治療はおろか診断もつきません。身体の構造を知ることを目的とした解剖学は医学の中で最も古い学問の一つです。身体を隈なく調べて得た知見の蓄積が解剖学の根幹となっています。

私たちは、生前にご自分のお身体を医学や歯学の教育と研究に役立てて欲しいとの願いにより、日本大学松戸歯学部白菊会に会員登録された方々のご遺体を解剖させていただいております。

解剖の目的は教育と研究

解剖の第一の目的は教育です。医学部と歯学部の学生は座学と実習によって解剖学を学修した後に臨床科目を学修します。ご遺体から学ぶのは身体の構造だけではありません。医の倫理、生命の尊厳、責任感など医療者が身につけるべき多くの事を同時に学びます。

解剖の第二の目的は研究です。ヒトは一人一人違います。外見だけでなく身体の内部にも個性があります。解剖書には標準的な構造が記載されますが、この基本形から大きく外れることも多々あります。私たちは、これまでに数百名に及ぶご遺体を解剖させていただきましたが、日々新たな発見があります。

ご遺体からの知見を臨床に生かす

 ご遺体の解剖所見は写真やスケッチなど二次元情報として記録しますが、三次元的な関係が分かり難いのが問題です。私たちは写真測量法の技術を応用してご遺体の所見を三次元画像として記録しており(図)、ご遺体の火葬後も精度の高い画像を繰り返し観察することが可能となりました。

総義歯は失われた歯と顎骨の形態と機能を回復する役割を果たしますが、大き過ぎても小さ過ぎても問題が生じます。総義歯の床縁が可動域、すなわち粘膜下に筋が走行する場所にあると、筋の動きによって義歯が浮き上がります。義歯を維持するためには個人個人にあった大きさが求められます。

私たちは有床義歯補綴学講座の河相安彦教授とご遺体の解剖所見を比較しながら、エビデンス(根拠)に基づく適切な義歯の設計を検討しています。ご遺体を提供いただいた方々のご厚情に感謝しつつ、臨床家に役立つ情報を呈示することを目指して研究を進めています。

■日本大学松戸歯学部庶務課☎047・360・9567。

図の説明

図:CG加工した写真測量法による画像。

頭部の正中矢状断面を内側から見ています。義歯と筋の三次元的関係が分かるように視角を変えた三枚の画像A、B、Cを示します。Mh(顎舌骨筋)は口の床を形成し、開口と飲み込み(嚥下)に働きます。義歯床(*)はMhの影響を受けない場所に設計します。