●医療最前線ドクターリポート118

口腔粘膜の解剖・組織学

日本大学松戸歯学部 
解剖U講座 准教授

岡田裕之先生

唾液腺

口腔には唾液(つば)を分泌する腺(消化腺・外分泌腺)が存在していて、これを唾液腺と言います。唾液は水を主成分(99パーセント)とし、タンパク質、糖質、消化酵素、免疫グロブリンや電解質などが含まれていて、その最も重要な役割が口腔の保護作用(歯と口腔内を洗浄して湿潤を保つ)です。

唾液腺を唾液の性状から分けると、さらさらした唾液を分泌する漿液(しょうえき)腺と、ねばねばした唾液を出す粘液腺および両者を分泌する混合腺があります。一日の唾液量は1〜1.5Lで、約7割を大唾液腺が、またその多く(全唾液量の約6割)を顎下腺が分泌しています。

唾液腺の種類と部位

唾液腺を存在する部位から分類すると、独立した器官として存在する腺体が大きな唾液腺(大唾液腺)と、口腔粘膜(口唇(くちびる)、舌、口蓋(うわあご)、頬の粘膜)の粘膜内にある小さな唾液腺(小唾液腺)とに分けることもできます。

大唾液腺には耳下腺、顎下腺および舌下腺の三つがあります。耳下腺は外耳の前方のやや下部にあり、純漿液腺(100パーセントさらさらした唾液を分泌)で、頬粘膜に開口し、唾液を出しています。顎下腺は下顎角部(下あごの骨のエラの内がわ)にあり、漿液優位の混合腺(約7割が漿液)で、舌下小丘(下顎前歯の奥で舌の下)に開口しています。

舌下腺は口腔底の前部、舌の下でのど仏の上にあり、粘液優位の混合腺(約7割が粘液)で、舌下小丘と舌下ヒダ(舌下小丘の少し後ろ)に開口しています。

小唾液腺は口腔の全体に分布し、その存在する場所により口唇腺、舌腺(前舌腺、後舌腺、エブネル腺)、口蓋腺、臼歯腺および頬腺があり、小唾液腺では舌の有郭乳頭などにある味蕾(みらい=味を感じる器官)を洗い流すエブネル腺だけが純漿液腺であり、他はいずれも粘液優位の混合腺です。

唾液腺の病変

小児期(子供の頃)に耳下腺がムンプスウイルスに感染したもの(流行性耳下腺炎)を一般に「おたふく風邪」と呼びます。唇を何度も咬んでしまうなどして唾液の流出障害により生じる口唇の小腫瘤(こぶ)を粘液嚢胞(粘液瘤)と言います。また、唾液腺に結石が出来る事もあり唾石症と言い、中高年の男性、顎下腺に多く、食事中に唾液が流出できないために痛み(唾疝痛)がでるのが特徴です。

中年女性に好発する自己免疫疾患がシェーグレン症候群で、唾液腺や涙腺が特異的に障害されるため口の乾燥やドライアイなどがその症状です。

また病気では無いのですが、唾液腺の加齢変化としてさらさらした唾液を作る細胞が減ることにより唾液量が減り、ねばねばしてきます。これらにはエックス線検査や細胞診ないし病理組織検査が有効なことも多いです。

口腔内の病変は直視可能なものがほとんどですので、一週間ほど経過しても治らなければ、かかりつけ歯科医または口腔外科専門医、歯科放射線専門医、口腔病理専門医および細胞診専門歯科医が常駐する本学付属病院などを受診することをお勧めします。

1. 顎下腺(矢印:粘液腺房 矢頭:漿液腺房)
2.有郭乳頭(矢印:味蕾 矢頭:エブネル腺)

■日本大学松戸歯学部付属病院TEL:047〜360〜9561

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