●医療最前線ドクターリポート87 |
虫歯菌のルーツを尋ねて 日本大学松戸歯学部 平澤正知先生 |
虫歯菌は誰にでもいるのか 虫歯菌は全世界のヒトの口腔から検出されています。もちろん人種的にも、また先進国、発展途上国などあらゆる生活圏のヒトから、文化、経済、食習慣、生活様式などが異なっていても、本菌は地球上の全人類の口腔に分布しているといえます。 この虫歯菌は歯がなければ口の中に住むことが出来ませんので、菌が移り住むのは乳歯がはえてくる頃からになります。主に母(父)親から唾液を介して侵入し、住み着きます。もちろん、母(父)親の口腔内の虫歯菌の量や乳児期の砂糖の摂取は大きく影響します。また、サル、ネズミそしてハムスターにもヒトと類似した虫歯菌がいることはすでに知られています。 虫歯はいつ頃からあったの 虫歯は紀元前3万5000年から1万年頃の歯を調べたところ、1パーセント程度と非常に少ないながら、あるという報告がなされています。これを虫歯菌の出現した時期とする根拠はありませんが、80万年前のヒトの祖先、南アフリカの猿人に虫歯の痕跡が認められるといわれているところから、この菌はサルからヒトへと移ったのではとも思われます。 有史以来、あの独特な想像を超えた痛みゆえに「患者を殺すことはないがこの世で最も痛いのは歯の痛みである」とか「歯の痛みを我慢できる鉄人はいない」などと語り継がれています。現在ではそれ程の痛みを感じることなくすぐ歯科医院を訪れるわけですが、マグロ漁船など遠洋漁業に出て歯が痛くなったらどんなに大変か想像するだけで子供の頃の歯の痛みを思い出します。 虫歯の増加と時代背景 虫歯は砂糖の消費量と密接に関係していますが、その発生が劇的に変化したのは産業革命によって工業化が進み、精製された砂糖が安価で入手できるようになった時代からです。虫歯と砂糖の関係は今や知らないヒトがいないくらい、虫歯菌によって砂糖から虫歯ができる様子について絵本などで目にします。 日本では昭和30年代に生まれて虫歯のないヒトはいない、といわれていますが、戦後、日本の復興とともにあの甘い砂糖に魅了されて、砂糖を含む食べ物をあまりにも多く取ったこの世代の虫歯発生は、極めて高い結果となっています。 虫歯菌は他の動物にもいるのか 虫歯菌はどのようにヒトへ移り住んだのかということに興味をもち、動物の虫歯菌を調査しました。次回は果たしてペットであるイヌやネコに、また、果物や蜂蜜などの甘味を食する動物に虫歯菌は住んでいるのか、そしてサルから本当にヒトへ移ったのか、などについてお話します。 *国語辞典に「齲歯(うし)」という言葉は収録されているが、齲蝕(うしょく)という用語は一般的でなく、「虫歯」が日本語として認知されているのでこれを使用しました。
■日本大学松戸歯学部口腔微生物学講座 |