●K太先生の「 放課後の黒板消し」 43

イメージ出来ないこと
難しい文章とは…

 サン= テグジュペリの『星の王子さま』に「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」という一節があります。

 文章を読んで「難しい」「わからない」と感じてしまうことの一因に、話の内容をイメージ(想像)出来ないということがあります。例えば、説明文(評論文)の場合、環境問題やインターネットの世界など身近なことがテーマであれば「なるほど」と頷くことも出来ます。また、動植物や昆虫の生態などは普段目にしないものの、写真や実物を見たことがあれば、これも想像が出来るものです。

  しかし、「目に見えないもの」がテーマだとしたらどうでしょう。

  たとえば「時間」というものは目には映りません。時計や四季の移り変わりから感じとることは出来ますが、一方で同じ30分間でも「あっという間」に感じたり「長いなあ」と感じたり。

  また「心」も同様で、誰しもが「心はある」と断言しながら、どんな形でどこに存在するのか見たことのある人間はいません。揺れたり閉ざしたり移り変わったりと変幻自在なうえ、「本心」という本当の心があり、一方で嘘の心もあるのです。時には良心の呵責で胸が痛むし、「心頭を滅却すれば火もまた涼し」と無心になることも出来ます。

  他にも「生と死」のように誰もが経験することでありながら、実感が難しいテーマもあります。

  物語文(小説文)では、正にこの心の移り変わりなどをイメージ出来ることが読解力の一部とされています。たとえば息子の成長を「本心から喜びながらも内心では少し寂しいと感じる」というような複雑な心情も、目には見えませんが確かに存在するものですね。

  児童生徒のみなさんにとっては、新学期4月は「期待と不安」に包まれる季節です。矛盾する二つの心が同居するアンビバレンスは、もしかしたら、イメージ出来ない、分からない、筆頭のものなのかもしれません。

■K太先生
現役教師。教育現場のありのままを伝えるコラム。
 


K太せんせいの本棚I  読書案内

世界は冒険で溢れている

 冒険譚は古今東西に星の数ほど存在します。仲間と共に妖怪を倒しながら天竺を目指す『西遊記』や、秘宝を求めて遺跡を発掘する『インディ=ジョーンズ』シリーズなどは多くの映画やドラマになっていて、いつもはらはらどきどきです。

  また、ジュール・ベルヌの『八十日間世界一周』100年以上前の作品ですが、当時の日本が描かれる場面があり、タイムスリップをしているような、はたまたまったく別の国を見ているような不思議な感覚にとらわれます。

  漂流から始まる冒険ではダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー漂流記』やベルヌの『十五少年漂流記』が筆頭でしょうか。少年少女が未知の世界に足を踏み入れれば、そこには冒険が広がります。困難を友情で乗りこえ成長する姿にはやはり心惹かれるものです。

  イーニッド・ブライトン『冒険シリーズ』やマーク・トウェイン『トムソーヤの冒険』では、闊達な主人公たちが活躍します。ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』はファンタジーいっぱいの世界が舞台です。

  未知の世界を別角度から見ると、映画で有名な『スタンドバイミー』は少年たちが死体探しをする物語です。湯本香樹実著『夏の庭』は町外れに暮らす生ける屍のような老人が死ぬ瞬間を見る、ということが物語の筋です。少し重いテーマにきこえますが、「死」は身近に有りながら普段は隠されている未知の世界なのです。 

  現実生活に息が詰まったら、その世界から出てしまうことも冒険かもしれません。坂井希久子著『ハーレーじじいの背中』や、宗田理著『ぼくらの七日間戦争』などを読んで日常を飛び出してみませんか。

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