●医療最前線ドクターリポート179

歯科への上手なかかり方2

日本大学松戸歯学部は歯科学を「口腔科学(Oral Science)」と捉え、医学の一分科としての教育を展開。最前線で活躍する歯科・医科のスペシャリストに、医療現場の現在と未来について連載でリポートしてもらう。

日本大学松戸歯学部 歯科総合診療学講座
教授 伊藤 孝訓  先生

 歯科の治療がうまく展開されるために、患者さんが知っていると役立つと思われる知識の紹介の2回目です。歯科医療の特徴を知ることで、より上手なかかり方ができます。

自分の口の状態を知ろう

 ヒトの歯の本数は何本かご存知ですか。愛犬の歯の本数は・・。来院する患者さんを調べたら、約10l程度しか知らなかったということを聞きます。イヌの本数は、歯科医師でも知る人は少ないでしょうからご安心ください。ちなみに、ヒトは親知らず(智歯)を含めて32本、イヌは42本です。
 小さな鏡を口に入れて、それを写す手鏡を2枚使うと見えます。どの歯が壊れているか、他の歯と比較してその違いを観察してください。上下の歯形の違いはありますが、左右は同じです。

歯科医師にはできるだけ具体的に説明しよう

 専門用語を使っての説明は必要ありません。無理せず感じている症状を素直に話してください。痛みが何処か、患歯(原因歯)がわかるか、わからないか。冷たい飲み物で凍みるか、噛んだ時にどのように感じるか。顎を大きく開けられるか、つばを飲み込むと痛いか、鎮痛剤は効いたか。これまでに治療は受けたか、どんな対処を試みたか、など、お話しください。
 そして、自己診断してみてください。どうしたら治るか、治らないか。治療を受けたら今後どうなるか、想像して伝えてください。患者さんの思いや希望が伝われば方針を決めやすくなります。これを病気解釈モデルと言います。
 学術的に正しいか正しくないかは歯科医師が診断しますが、患者さんの思いが具体化され、治療を進める上でとても参考になります。どうぞご自身の病気に関心をお持ちになって協力してください。

歯科治療は“普通以上”にならない

 「医療はサービス業」といわれますが、果たして医療は飲食業や販売業と同じサービス業なのでしょうか。「患者様」という言葉は、ほとんどの患者さんは違和感を憶えますが、15l程度の方は良い表現だと思っているとのことです。
 一般のサービス業は、お金をたくさん出せば、“普通以上”の良いものを得ることができます。しかし、歯科医療は、いったん“普通以下”すなわち“健康から機能障害に落ちてしまった”のですから、同じ健康状態に戻すことはほとんど無理です。どんなにすばらしい治療がなされても、あなたの考える“普通以上”にはしてあげられないのが“医療”です。口腔の機能回復も健康状態の100lに戻すことは不可能だということを理解してください、
また、口腔は繊細な感覚器官です。歯と顎骨の間にある歯根膜は、食事中に髪の毛(髪の太さは約50〜100μm)が一本入っていても、噛んだ際に感じ取れるほどの鋭さです。これほどの鋭い感覚は義歯による回復では難しいです。
 そのためにも日頃の口腔ケアを大切にしてください。歯科医師による定期的な検診を受け、早期治療と現状維持を心掛けてください。

■日本大学松戸歯学部庶務課 電話047・360・9567
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