●K太先生の「 放課後の黒板消し」 40

 三つの笑顔

 「エンカウンター」とは、本音を表現し合い、それを互いに認め合う体験のことを言います。自己理解や他者理解、自己受容などを育むために、教育現場では構成的グループエンカウンターを実施して、友人関係を築くきっかけとしています。

 さて、間もなく1年の締めくくりを迎える3月のある日、「笑顔」をテーマにクラスで互いに認め合う活動をしました。

  目標は1年間を振り返ってクラスの中に3つの笑顔を見つけること。

笑顔@は「MAO’s SMILE」フィギュアスケーターの浅田真央選手のような笑顔です。フィギュアスケートは華麗な滑走の裏側で限界ギリギリのジャンプや回転をしています。

  しかし、観客には決してその苦しさを見せません。つまりこの笑顔は「自分が苦しくつらいときにこそ魅(み)せる笑顔」「仲間が肩を落とし、元気を失っているときにこそ見せる笑顔」なのです

笑顔Aは「ARIMORI’s SMILE」マラソンランナーの有森裕子選手のような笑顔です。バルセロナ五輪で銀メダルを獲得した有森選手は、続くアトランタ五輪でも銅メダルに耀きました。

  メダルの色は惜しくも下がってしまったのですが、このとき「初めて自分で自分を褒めたいと思います」という言葉が笑顔と共に発せられたのです。まさに「全身全霊を掛けた人が、やり遂げた瞬間に耀かせる笑顔」に他なりません。結果ではなく、心の底からあふれるような達成感が必要なのです。

笑顔Bは「ICHIRO’s SMILE」メジャーリーガーのイチロー選手のような笑顔です。先日の引退試合で見せてくれた満面の笑みも素敵ですが、ここでは日本代表を世界一へと導いたWBC(野球の世界大会)優勝のときの笑顔を指します。すなわち「誇りと自信に満ちた笑顔、自分たちを信じ切った先に咲く笑顔」です。

  「あなたの『MAO’s SMILE』に何度も救われた。いつもありがとう」自分やクラスの中に、これらの笑顔を見つけ互いに認め合えたとき、そこには一生モノの絆を持つ仲間が生まれると思うのです。

■K太先生
現役教師。教育現場のありのままを伝えるコラム。
 


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発見!やる気スイッチ

 池谷裕二先生は東京大学で教鞭を執っておられる脳科学者です。今回紹介する『のうだま〜やる気の秘密』は、池谷先生と漫画家でイラストレーターの上大岡トメさんがユニットを組んで出版した画期的な本です。

  一言で言えば「やる気スイッチの発見」となるでしょう。教室でも多く見られる「やる気が出ない」「何事も続かない」状態に対し、従来の気合いや根性ではない方法で突破をはかったものです。

  特に目から鱗なのは「そもそも人間は三日坊主になるようにできている」という一歩目の視点です。どんなに刺激的で感動する出来事でも、それに「馴れ」てしまうと「飽き」てしまうのが人間です。いわゆるマンネリ化ですね。

  しかし逆転の発想で、どんなにつらいことでも「続け」ているうちに「馴れ」てしまえば「習慣」にすることができるのです。例えば、幼い頃に歯磨きが大嫌いで毎回号泣していた子が、今ではボーっと寝ぼけ眼でもしっかりと磨けていますよね。

  ところが、その苦しさが生活や健康に関係しない場合、多くの人は習慣になる前に投げ出してしまいます。その代表格が勉強でしょう。読書が習慣化していない人や夏休みの宿題を溜めてしまう人など、コツコツが苦手な人がその例です。

  では、どうしたら地道に続けられるのか。実はそのためのスイッチを私たちは常に4つも持っているというのです。生活の中でどれか一つでも押せれば……。

  なお『のうだま2』の副題は「記憶力が年齢とともに衰えるなんてウソ」です。記憶がテーマのこちらも読んで、脳科学の世界に飛び込んでみてください。

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