●医療最前線ドクターリポート178

歯科への上手なかかり方1

日本大学松戸歯学部は歯科学を「口腔科学(Oral Science)」と捉え、医学の一分科としての教育を展開。最前線で活躍する歯科・医科のスペシャリストに、医療現場の現在と未来について連載でリポートしてもらう。

日本大学松戸歯学部 歯科総合診療学講座
教授 伊藤 孝訓  先生

 近年、歯科医学の進歩に伴い、多くの新しい治療法が生まれています。しかし、今回は新しい治療法の紹介ではなく、うまく治療を展開するために、患者さんが知っていると役立つと思われる知識を提供しようと思います。すなわち、歯科医療の特徴を知ることで、より上手なかかり方ができます。

歯科治療は計画的に進めます

 現在の歯科治療は、痛いところだけを治して終わるような、その場限りの治療は行いません。前歯や奥歯など多くの歯はそれぞれの役割があります。きれいに一同に並ぶことで、咀嚼(そしゃく)機能が回復されます。そのため、治療はすべての歯や土台となる歯肉などが対象で、処置終了後も、できるだけ機能を維持するためにリコール(定期検診)を重ねて、大きな崩壊へ向かわないように定期的にメンテナンス(維持管理)をします。

 口腔の機能を回復させるためには計画を立てて治す順番を決めてから開始します。また、歯科は治療回数がたくさんかかるのでつらいと聞きます。詰め物程度の小さな虫歯は数本をまとめて行えますが、大きく進行した虫歯は行えません。処置そのものが身体に対する刺激となり、炎症が増大することがありますので、まとめて行うことは避けるべきなのです。

歯科は完全予約制です

 30年前の歯科医院は、朝早く並んで予約をとり診療が始まるのを待ちました。進行した虫歯を持った患者さんも多く、待合室も溢れていました。しかし、現在の待合室は患者さんの姿がまばらです。歯科医院が多く増えたことで、患者さんも仕事場や住居の近くにあるので、たいへん通院しやすくなったと思います。

 治療は定期的な完全予約で進むため、拘束される時間が短くなり、長く待たされることもなくなりました。しかし、急患の場合は今まで通り待つことになりますので、事前に電話で空き状況を確認する方が、自分の時間をより有効的に使えます。

 そこで、お願いです。歯科医院は完全予約制ですので、連絡のないキャンセルは慎んでください。ホテルやレストランでは、みなキャンセル料は取られます。しかし、歯科医院の考えはリザベェーション(予約)というよりは、アポイント(約束)ですので、先生との約束はぜひ守ってください。

かかりつけ歯科医をもとう

 歯科治療は各治療法の基本的な適応症例は決まっています。しかし、治療法は医科と異なり選択の幅があります。がんのような明確な方針と違い、咀嚼機能回復や審美的問題に応じた保険や自費治療があります。この治療選択には、個々の患者さんの抱く価値観と歯科医側の学識経験などによって方針が異なることがあります。

  治療には完結がないため、その後も定期的な観察を含めて、同じ主治医による治療とケアを重ねた方が、より安定した口腔機能の維持ができます。ドクターショッピングという言葉がある通り、多くの歯科医院を渡り歩くより、かかりつけ歯科医を決めた方が重症化の予防、ライフサイクルに応じた治療と口腔管理ができるでしょう。

  虫歯の多かった日本ですが、歯科医師会が勧めた8020運動(80歳で20本以上の歯を保有しよう)により、1989年 (平成元年)の運動開始当初7l程度でしたが、2017年には51.2lになり、自分の歯を多く持つ高齢者が増えています。

■日本大学松戸歯学部庶務課 電話047・360・9567
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